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文明の交差点の地政学 アフメト・ダウトオウル著 書肆心水 3600円

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奥深い戦略的な深み

評・篠田英朗(国際政治学者・東京外国語大教授)

◇Ahmet Davutoglu=1959年生まれ。トルコ・未来党議長。エルドアン大統領のもとで首相を務めた。
◇Ahmet Davutoglu=1959年生まれ。トルコ・未来党議長。エルドアン大統領のもとで首相を務めた。

 世界地図を傍らに置いて読んでみたい。トルコ周辺の様々な海や土地の名前が登場する。慣れないものもあるかもしれない。じっくり読んでも、そうでなくてもいいだろう。いずれにしても、新鮮で、奥深い。トルコの地政学に目を開かされる気持ちになる長大な書である。

 著者は国際政治学者から政治家になり、首相まで務めた人物である。原著題名の『戦略的深み』は、エルドアン大統領が体現する「新オスマン主義」の狙いを端的に説明する。

 国家のパワーは、「定数」である「歴史、地理、人口、文化」と「変数」である「経済力、技術力、軍事力」に「戦略思考、戦略的計画、政治意志」を乗じたものとして定義される。その観点から、「時空(歴史と地理)認識の論理的に首尾一貫した合理的戦略の分析」を試みるならば、「トルコがなぜこれほど豊富でダイナミックな戦略的位置にあるか」が明らかになる。

 著者はこのように論じながら、バルカン諸国、中東、中央アジア、欧州という、近隣内陸圏、近隣海洋圏、近隣大陸圏などとトルコとの関係を論じていく。その基底に、オスマン帝国及び周辺地域の長く複雑な歴史への洞察が組み込まれる。

 著者が最も反発しているのは、ハンチントンの「文明の衝突」論だ。なぜならトルコとは、複数の文明が重なりあう場所だからだ。文明を固定的かつ排他的なものとみなすのは、トルコの地政学の視点ではない。

 もちろんトルコにも地理的・歴史的な制約はある。また、近現代において数々の失敗も犯してきた。しかし、「歴史的な深みと戦略的な深みを改めて有意義に統一し」「地理的な深みの中でかす」ならば、トルコは「中枢国家の地位を獲得する」と、著者は述べる。

 日本人の読者は、本書を読了すると、あまりの彼我の差に衝撃を受け、嘆息するのではないか。なぜ日本にもこのような奥深い地政学の戦略書は現れないのか、と。中田考監訳。

無断転載・複製を禁じます
1697237 0 書評 2020/12/13 05:00:00 2020/12/21 11:23:24 「文明の交差点の地政学」(30日、読売新聞東京本社で)=橘薫撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/12/20201212-OYT8I50043-T.jpg?type=thumbnail

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