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路上のポルトレ 森まゆみ著 羽鳥書店 2200円

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記憶の索引を愉しむ

評・中島隆博(哲学者・東京大教授)

◇もり・まゆみ=1954年生まれ。作家。著書に『鴎外の坂』『「即興詩人」のイタリア』『「青鞜」の冒険』など。
◇もり・まゆみ=1954年生まれ。作家。著書に『鴎外の坂』『「即興詩人」のイタリア』『「青鞜」の冒険』など。

 本を読むたのしみにはいろいろあるものの、索引から読むという愉しみは、そう滅多めったに味わえるものではない。あ行の最初は、近くにある東大の原子力研究所を心配していた弥生町の町会長の青木誠さんで、わ行の最後は、「谷中で戦争を語りつぐ会」を開いてきた元中学の理科教師の和田章子さんである。

 この本は、森まゆみさんが無名有名を問わず、自分が住む東京都文京区の「谷根千やねせん(谷中・根津・千駄木)」界隈かいわいを中心に出会った方々の「ポルトレ」(肖像)を描いたエッセー集だ。「この世で見たこと、感じたこと、会った人のことを次の世代に手渡したい」。そう、森さん自身が会った人の記憶を継承し、その上で、その森さんの出会いがここで手渡されているのだ。

 映画監督の時枝俊江さんの「ポルトレ」はこうだ。「時枝さんはおかっぱ頭でタバコをくゆらしながら、校庭の隅に腰をかけてかっこよかった」。時枝さんの代表作は「夜明けの国」で、文化大革命当時の中国を撮ったものだ。ある種の「かっこよさ」で切り取らないと見えてこない過酷な現実と格闘したのである。

 「ガンボロー」のマクブールさんも忘れ難い。それは、東日本大震災の後に、いわきのモスクで炊き出しをしていたバングラディシュ人のコックさんの口癖である。その独特の料理法とともに、しゃがれ声で皆に唱和させた「ガンボロー」。その後、マクブールさんは故国に帰って亡くなった。「フルネームを知らない」と森さんは書く。きっと、あちこちにこうしたマクブールさんが数多くいるのだろう。その「ガンボロー」にどれだけの人々が救われたことか。

 不思議なことは、森さんのおもい出と出会うことで、読者自身の憶い出もよみがえってくることだ。時枝俊江さんやマクブールさんのような友人との出会いが、そういえばあったような。そこから自分自身の記憶の索引を引き出すことができれば、至福の喜びである。

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1759676 0 書評 2021/01/10 05:00:00 2021/01/18 10:50:02 路上のポルトレ(4日午後1時3分、東京都千代田区で)=三浦邦彦撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210109-OYT8I50015-T.jpg?type=thumbnail

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