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エデュケーション 大学は私の人生を変えた タラ・ウェストーバー著 早川書房 2200円

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◇Tara Westover=米ハーバード大上級研究員。英ケンブリッジ大で哲学修士に続き、歴史学博士号を取得。
◇Tara Westover=米ハーバード大上級研究員。英ケンブリッジ大で哲学修士に続き、歴史学博士号を取得。

内なる強制からの解放

評・橋本倫史(ノンフィクションライター)

 「もっとも強烈な記憶は、実はほんとうの記憶ではない」。本書はこう書き始められる。その記憶とは、1992年に起きたルビー・リッジ事件にまつわるものだ。信仰に基づき、社会的な生活を拒んでいたウィーバー家とFBIの間に武装衝突が起こり、死者が出た。父から聞かされたその事件は恐怖を植えつけ、著者自身の記憶のように残った。彼女の家族もまた、ウィーバー家のように暮らしていたからだ。

 『エデュケーション』は、1986年にアメリカ・アイダホ州に生まれたタラ・ウェストーバーの回顧録だ。彼女は原理主義的なモルモン教徒の家庭に生まれた。両親は現代医学を否定して民間療法に傾倒し、公立学校を「政府による陰謀の一部」と呼んだ。狂信的な両親の振る舞いや、ネグレクトされたこどもたち、兄からの陰惨な暴力には息をむばかりだが、本書の主題はあくまで「教育」にある。

 少女だったころのタラは、兄からひどい仕打ちをされるたび、トイレで三面鏡を見つめた。そこに映る自分の顔を見つめながら、兄が正しかったのだと自分に言い聞かせ、記憶をねじ曲げるすべを身につけていた。だが、独学で大学に合格すると、「教育」が彼女を変えてゆく。

 ある年の冬、タラは郷里に戻り、父と対峙たいじする。ふいに涙を流してしまった彼女は、思わずトイレに逃げ込んだ。しかし、三面鏡の前に立っても、かつてのように父に盲従することはできなかった。大学で歴史学を専攻したタラは、哲学の講義で「積極的自由」という概念と出会う。「不合理な恐怖や信念、嗜癖しへき、迷信」といった「内なる強制からの自由」。この概念を血肉化した彼女は、家族から解放され、自由を手に入れる。

 最終的に、著者はケンブリッジ大学で博士号を取得する。だが、これは天才がアメリカン・ドリームをつかみ取る感動の物語ではなく、自分をちっぽけな存在だと思い込んでいるすべての人の背中を押す物語だ。村井理子訳。

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1775257 0 書評 2021/01/17 05:00:00 2021/01/25 12:08:44 エデユケーション(4日午後1時9分、東京都千代田区で)=三浦邦彦撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210116-OYT8I50034-T.jpg?type=thumbnail

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