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化け者心中 蝉谷めぐ実著 KADOKAWA 1650円(●は「虫」の右に「単」)

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◇せみたに・めぐみ=1992年、大阪府生まれ。作家。早大文学部で、化政期の歌舞伎をテーマに卒論を書く。
◇せみたに・めぐみ=1992年、大阪府生まれ。作家。早大文学部で、化政期の歌舞伎をテーマに卒論を書く。

江戸の歌舞伎界を活写

評・木内 昇(作家)

 なにかんでいる。古い建物に踏み入ると、そんな気配を感ずることがある。幾多の人の強い存念が行き交う場ならなおのこと。もっとも霊感ゼロの評者のことゆえ当てにはならぬが、野性時代新人賞を射止めた本作に引き込まれるうち、さもありなんと大きくうなずいた次第。

 ときは文政。芝居小屋が建ち並ぶ江戸は二丁町。中村座の一部屋で、六人の役者が車座になって新作の本読みをしている。座元、中村勘三郎が見守る中、座付き作者が読み上げる、個々の台詞せりふを確かめるのだ。と、百目蝋燭ろうそくの灯がふっと揺らいだ。刹那、首がひとつ、ごろりと転がる。暗がりに響くのは、骨や肉をむ音。だが次にあかりがともったとき、誰も欠けずにその場に在る。人ひとりらった「鬼」が、誰かに成り代わっているということか――。

 この変事を解き明かすべく勘三郎が助けを求めたのが、当代一の女形と称されながら、ある事件ですね半ばから両足を失い、役者の道を退いた田村魚之助。加えて、彼に振り回される鳥屋の青年、藤九郎。ふたりの軽妙な掛け合いが、陰惨になりそうな物語を明るく弾ませる。

 鬼探しの過程であらわになるのは、役者衆の抱える妬みや羨望、絶望だ。名門の名跡を継ぎながら、力量が伴わぬと嘆く者。芸が秀でているばかりに、陰険ないじめを受ける若女形。才とは望む者に与えられるわけではない。努めれば必ず実るというのも幻想だ。そんな理不尽の中に身を置き、同志であると同時にライバルでもある役者衆。彼らのもがきは、図抜けた資質と器量を持ちながら、舞台から降りることを余儀なくされた魚之助の目にどう映ったのか。そして、まことの「鬼」とは果たしてなんなのか。

 おそらく魚之助のモデルは、壊疽えそで四肢を断った女形、三代目澤村田之助。当時の歌舞伎界に分け入りつつも、造詣をおはなしに違和なく溶かし、自在に「人」を活写したこの世界。皆々様、どうぞ心ゆくまで浸ってくだっし。

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1775304 0 書評 2021/01/17 05:00:00 2021/01/25 12:33:37 化け物心中(4日午後1時8分、東京都千代田区で)=三浦邦彦撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210116-OYT8I50037-T.jpg?type=thumbnail

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