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しのぶ恋 諸田玲子著 文芸春秋 1600円

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◇もろた・れいこ=1954年、静岡市生まれ。『奸婦にあらず』で新田次郎文学賞。著書に『狸穴あいあい坂』。
◇もろた・れいこ=1954年、静岡市生まれ。『奸婦にあらず』で新田次郎文学賞。著書に『狸穴あいあい坂』。

浮世絵から短編紡ぐ

評・長田育恵(劇作家)

 なんと鮮やかな趣向。「浮世七景」と副題を冠するこの本は、七人の浮世絵師たちの傑作に、著者が丹念に向かい合い、それぞれの絵から自由闊達かったつな着想で物語を紡いだ短編集だ。しかも広重・国政・国貞・春信・北斎・歌麿・写楽と趣の異なる絵師たち独自の筆致を受けて立ち、小説各編の味わいも幅広い。

 幕開けは広重を材に取る「太鼓橋雪景色」。一面の白に覆われた景色の下から、ひわの初恋がほとばしる。蛮社の獄に反発する不穏分子たちの血飛沫しぶきが散り、ひわが恋する鉄次郎もはかりごとに巻き込まれている。大事決行を控えた日、ひわと鉄次郎は雪の太鼓橋で待ち合わせるが……。

 塗り重ねられた白の下に潜む鮮烈な色。それは心に秘めたあやそのもの。春信から材を取った「縁先物語」では、老境の角之助が過去に向き合うこととなる。少年の頃に見た、縁先で寄り添う商家の娘とその乳母。それはあまりに甘美な夢のようで、角之助は思わず一歩踏み出し、過ちを犯してしまう。その結果が引き起こす悲劇を彼は知らずに生きてきていた。

 歌麿「深く忍恋」からは、純愛を貫くためなら、長煙管きせるの柄を取り換えるように、自らの名を変えて生きることもいとわない、おりきの覚悟が語られる。わずかに望んだささやかな幸せ、それがこんなにも遠い。それでも人生を嘆きはしない。胸の奥、誰にも届かない場所に色せない記憶を仕舞い、りんとして歩いていく。

 七編通して刻まれる人生の機微。傷痕は、時がつほど色合いを深めゆく。だが著者はつましい日常への慈しみも忘れない。それは「太鼓橋雪景色」の最後で描かれる。ひわは若き日を振り返り、果たせなかった約束をおもう。自分にも別の人生があったかもしれないと。けれど今また雪は降り、あたりは白に覆われる。どれほど濃い色よりも、最も明るい色が白なのだ。雪は照り返しを受け、銀色に輝く。それは日常を生きるすべての人への祝福に思えた。

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1775307 0 書評 2021/01/17 05:00:00 2021/01/25 12:07:43 書評用 「しのぶ恋」 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210116-OYT8I50038-T.jpg?type=thumbnail

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