読売新聞オンライン

メニュー

ニュース

動画

写真

スポーツ

コラム・連載・解説

発言小町

漫画

教育・受験・就活

調査研究

紙面ビューアー

その他

サービス

読売新聞のメディア

購読のお申し込み

読売新聞オンラインについて

公式SNSアカウント

バグダードのフランケンシュタイン アフマド・サアダーウィー著 集英社 2400円

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

濃厚で煮詰めた文章

評・宮部みゆき(作家)

◇Ahmed Saadawi=1973年、バグダッド生まれ。小説家。本書でアラブ小説国際賞を受賞した。
◇Ahmed Saadawi=1973年、バグダッド生まれ。小説家。本書でアラブ小説国際賞を受賞した。

 本書は話題作であり、ほぼ絶賛の評を集めているのだが、その評の中身がちょっとずつ対立しているのが面白い。「中東を舞台にした見事なSFだ」「社会小説であってSFではない」「中東の歴史に詳しくないと難解」「予備知識がなくても面白い」「ディストピア小説という惹句じゃっくは正しくない」「今の中東社会そのものがディストピアなのだから、その表現で正しい」。

 実際に読んでみた私の感想は、「意外に笑えるし、泣ける」ということだった。

 そもフランケンシュタインは、恐ろしさと不気味さに加えて、ほのかな滑稽味と不器用な愛らしさ、それらの要素がない交ぜになって生じる「不憫ふびんさ」が特徴のモンスターではないか。起き上がる死者といえば人肉に飢えるゾンビ一辺倒になってしまう以前は、フランケンシュタインこそが生死の壁を「曖昧にされてしまった」宙づりの存在で、私たちは彼に共感や同情、何なら母性愛に近いものさえ抱くことができた。

 では本書のフランケンシュタインはどうか。自爆テロが頻発する二〇〇五年のバグダードの町の片隅で、相棒を失った古物商のハーディーが、死体のパーツをつなぎ合わせて作った人造人間。私が最初に笑ったのは、ハーディーが彼のフランケンシュタインを完成させる「あるもの」を手に入れて、それが「ぴったりその場にはまって見えた」くだりだ。このパーツがいちばん手に入りにくかったというところには無惨むざんなリアリティがあり、そこは全く笑えないが。

 物語はここでスイッチが入る。ハーディーのフランケンシュタインは超人的な力を持つ復讐ふくしゅうの死の天使=「名無しさん」となり、彼の「正義」を求めて次々と猟奇殺人事件を起こすのだ。その顛末てんまつと、事件に巻き込まれた人々の交錯する心模様を、著者は濃厚に煮詰めた文章でつづってゆく。「砂漠の町のジェイムズ・エルロイ」。ただ読後感はエルロイ作品よりずっと明るく、安らぎがあります。柳谷あゆみ訳。

無断転載・複製を禁じます
1809138 0 書評 2021/01/31 05:00:00 2021/02/08 11:22:06 『バグダードのフランケンシュタイン』(18日、東京都千代田区で)=横山就平撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210130-OYT8I50017-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)