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脳の大統一理論 乾敏郎、阪口豊著 岩波科学ライブラリー 1400円

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世界は脳の推論の結果

評・瀧澤弘和(経済学者・中央大教授)

◇いぬい・としお=追手門学院大教授。専門は神経科学 ◇さかぐち・ゆたか=電通大教授。専門は計算理論
◇いぬい・としお=追手門学院大教授。専門は神経科学 ◇さかぐち・ゆたか=電通大教授。専門は計算理論

 本書は、今世紀に入り、神経科学者フリストンが提案した、脳の情報処理の一般理論「自由エネルギー原理」に関する解説書である。その難解さのために多くの人を遠ざけてきた理論が、非常にわかりやすい解説でアクセスしやすいものになっている。

 われわれは外部状態を感知して生み出された感覚信号から、外部状態に関する予測信号を脳内に生成する。そして、それと感覚信号の誤差を最小化するように予測をたえず更新する。この図式が議論の出発点である。このプロセスを数式で表現したときに、物理学で、熱力学系から取り出せる最大の仕事量を表わす「ヘルムホルツの自由エネルギー」と同じ式が得られるのがこの原理の名前の由来である。

 この理論では、運動もまた、脳内で生み出した予測信号に近い感覚信号を得るために行われるものとして説明される。知覚と運動を同一の原理で説明しようとする点は、この理論のもっとも独創的なポイントである。

 本書の解説は、知覚、注意、運動といった理論の核心だけでなく、さまざまな応用可能性にも及ぶ。意思決定、好奇心、洞察などの高次の認知機能や、統合失調症・自閉症をよりよく理解するための新たな仮説も説明される。

 この原理の根底には、われわれが見ている世界は脳の推論の結果であり、それが真のものかどうかはわかりえないという想定がある。つまり、世界の状態に関する真の確率分布は未知のままだが、モデルを生成し、それらを評価して現実に肉薄する以外ないのだ。これは確率モデルの評価に関する情報量の理論で知られた構図と同じである。その類似性は、本書においても、系の乱雑さや情報量の多寡を表わす「エントロピー」という概念が頻出することに示されている。情報量の理論、熱力学、そして脳活動の基本原理を通底する数理に心躍らされるのは評者だけではないはずだ。

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1857378 0 書評 2021/02/21 05:00:00 2021/03/02 10:06:56 脳の大統一論(13日、東京都千代田区で)=飯島啓太撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/02/20210220-OYT8I50026-T.jpg?type=thumbnail

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