ラフカディオ・ハーンと日本の近代 牧野陽子著 新曜社 3600円
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神道世界をイメージで
評・栩木伸明(アイルランド文学者・早稲田大教授)

明治中期に来日し、後に帰化して小泉八雲と名乗ったラフカディオ・ハーンは昔話を語り直した短編集『怪談』で知られるが、紀行文やエッセイも数多い。本書は彼の文化論を日本近代の中に位置づけようとする試みである。
明治初期に来日したイザベラ・バードやB・H・チェンバレンは、文明化とキリスト教を直結させる思考法に慣れすぎていたため、神仏習合と祖先崇拝が結びついた日本の宗教的感性を理解できなかった。チェンバレンは神社の簡素さや神道における理論不在を批判さえした。
本書の著者によれば、ハーンはその批判に返答するかのようにエッセイ「生神様」を書いた。死後に先祖神となり、丘の上の神社にまつられた霊が、参拝者の声を聞いて昔のことを思い出し、里へ下りていくまでの心模様を、神様の一人称で
著者はハーンの英語原文に邦訳を添え、
ハーンを精読した柳田国男は、異世界とこの世のつながりが生きている、という認識を受け継いだ。柳宗悦は「朝鮮におけるハーン」になろうとした。柳が李朝白磁や
芥川龍之介も同じエッセイに影響を受け、忍耐と自己抑制がこもる微笑を短編「