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鬼才 伝説の編集人 齋藤十一 森功著 幻冬舎 1800円  2016年の週刊文春 柳澤健著 光文社 2300円

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人間の業に向き合う

評・橋本倫史(ノンフィクションライター)

◇もり・いさお=1961年生まれ。ノンフィクション作家 ◇やなぎさわ・たけし=60年生まれ。ノンフィクションライター
◇もり・いさお=1961年生まれ。ノンフィクション作家 ◇やなぎさわ・たけし=60年生まれ。ノンフィクションライター

 東京は牛込矢来町の新潮社に、シルバーのBMWが横付けされる。運転手が後部ドアを開けると、老紳士が姿を現す。紫煙をくゆらせ歩く男に、新潮社の社員はこうべを垂れる。『鬼才』に描かれる、ゴッドファーザーのような老紳士は、「新潮社の天皇」と称された伝説の編集者・齋藤十一じゅういちである。

 21年にわたり「新潮」の編集長を務めながら、齋藤は「週刊新潮」や「FOCUS」を創刊し、実質的な編集長として君臨した。「女、カネ、権力」という人間の欲望に焦点を当て、誰よりも早く「微妙なところ」を嗅ぎつける。人間嫌いと呼ばれた齋藤に特別な情報元はおらず、「狂気めいた鋭さ」だけで直観的にネタを探り当てる。「天から降ってくるテーマ」は必ず当たり、齋藤の存在は神格化されてゆく。記者は齋藤の足となり、地の果てまで取材にまわる。

 作家や政財界から面会の依頼があっても、齋藤は「毎日音楽を聴かなくちゃならないから」と断り、直観を磨き続けた。対照的に、「雑誌記者の基本は人に会うこと」と語るのは文芸春秋7代目社長・田中健五である。『2016年の週刊文春』は、「文芸春秋」の創刊まで遡りながら、底抜けに明るく、「仕事と遊びの境界線が曖昧で、アマチュアっぽさ」を残した文芸春秋の社員たちの群像を描く。

 「正義感からではなく、好奇心から」。この根本思想のもと、「週刊文春」はスクープを追い求めてゆく。スクープ記事に対し事前検閲や事前差し止めが求められ、メディアが萎縮いしゅくする時代においても、「親しき仲にもスキャンダル」を信条とする新谷学編集長の指揮により、「週刊文春」は仁義なき戦いへと突き進む。

 文春と新潮。アプローチは対照的だが、人間の業にとことん向き合う姿勢は同じだ。雑誌記者の濃厚な生き様に、心がひりつく。

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1873251 0 書評 2021/02/28 05:00:00 2021/03/08 10:08:44 「2016の週刊文春」「鬼才 伝説の編集人 齋藤十一」(13日、東京都千代田区で)=飯島啓太撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/02/20210227-OYT8I50039-T.jpg?type=thumbnail

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