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「三代目」スタディーズ 鈴木洋仁著 青土社 1800円

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初代や二代目ではなく

評・苅部 直(政治学者 東京大教授)

◇すずき・ひろひと=1980年、東京都生まれ。社会学者。東洋大研究助手。著書に『「平成」論』など。
◇すずき・ひろひと=1980年、東京都生まれ。社会学者。東洋大研究助手。著書に『「平成」論』など。

 「売家うりいえ唐様からようで書く三代目」。「三代目」という言葉を聞けば、多くの人がこの川柳を思い出すだろう。本書で鈴木洋仁も、自分自身の家族史や、松下電器産業・トヨタ自動車の創業家など、さまざまな「三代目」の経験について考察をめぐらす始めに、この文句を引いている。

 なぜ二代目や四代目ではなく三代目なのか。それは三代目に独特の「あてどのなさ」と関連していると鈴木は指摘する。二代目ならば、親の仕事を忠実に継承するか、あるいはそれを断ち切って独立するか、はっきりした選択を迫られる。三代目になれば、そこまで重い荷物を負った意識はなく、相対的に自由である。

 しかし四代目以後とは異なり、家を興した初代とのつながりの意識が残っているので、自分自身の選択と努力で人生を歩んできたという確信はない。そこに「三代目」に独特の、意識の揺れがある。大企業の社長の世襲による三代目の場合には、その揺れがもたらす影響は大きくなる。三代目を事実上、外に出す道を選んだ松下電器と、「世襲」のオーラを封印しながら三代目をとりこんだトヨタ。両社の選択の違いは、そのまま「三代目」が抱える揺れの、幅の広さにも対応するのだろう。

 さらに鈴木は、「家の永続」をめぐる柳田國男の考察や、近代の天皇の例を用いながら、この「三代目」意識が、近代の日本では広くゆきわたり、社会を特徴づけていると論じる。社会の流動化が進んだといっても、個人がばらばらに孤立しているわけではなく、身近な集団とのつながりを求める心情が残っている。そうした人が自分の生の全体を意味づけるために、二代前の祖先という「起源」との、ゆるやかなつながりを夢想するのである。

 この本がふれる例だけでなく、多くの人物の回想や伝記についても、この議論で説明できそうである。大胆に言えば、日本の近代とは「三代目」たちが動かしてきた時代なのであった。

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1942355 0 書評 2021/03/28 05:00:00 2021/04/05 10:21:04 「三代目」スタディーズ=泉祥平撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/03/20210327-OYT8I50054-T.jpg?type=thumbnail

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