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ははのれんあい 窪美澄著 KADOKAWA 1870円

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◇くぼ・みすみ=1965年、東京都生まれ。作家。『ふがいない僕は空を見た』で山本周五郎賞。
◇くぼ・みすみ=1965年、東京都生まれ。作家。『ふがいない僕は空を見た』で山本周五郎賞。

移ろいゆく家族の形

評・木内 昇(作家)

 家庭的で控えめな由紀子は、無口だが純朴な青年、智久とかれ合い、一緒になる。彼の実家が営む婦人服の縫製業を、義父母や夫とともに支える穏やかな日々。やがて長男の智晴ちはるも生まれ、家族の幸せな時間はいっそう膨らんでいくはずだった。だが、縫製の注文が減り、生活のために夫婦が外で働くようになってから、少しずつ家族の歯車が狂いはじめる。

 ミシンを踏む仕事が生きがいだった智久は新たな勤めにも暮らしにもうつろで、妻が幼い子を預けてまで駅の売店で働かざるを得ないことに、不満と自責の念を募らせていく。一方由紀子は、智晴の下に双子も生まれたというのに次第によそよそしくなる夫に戸惑う。共に感情を吐き出すことが苦手で、相手をおもんぱかるがゆえにすれ違う夫婦の姿はもどかしく、やるせない。

 後半は、シングルマザーの由紀子に代わって「はは」として家事を担う、高校生になった智晴の物語となる。父やその新たな家族への屈託はあるものの、純粋に友情や恋を育む彼の青春は微笑ほほえましく、また母・由紀子の変化にも目を奪われる。かつては家族に言いたいことも言えず、駅の売店でもおどおどしているばかりだった彼女が、社員として精一杯働き、息子たちにもおおらかに堂々と接している。そのたくましさはもちろん環境によって培われた面もあるだろうが、もともと彼女が秘めていた美質が、夫を欠いたことで表出したようにも感じるのだ。

 一般的には「不幸」とくくられる出来事が、個人にとって貴重な成長の糧となることもある。子供を守るため無我夢中で働いてきたからこそ由紀子は、生活者としての自信と自分らしい歩みを築くことができたのだろう。智晴はじめ子供たちもまた、葛藤しつつも、移ろいゆく家族の形を柔軟に受け入れることがかなったのではないか。最後に智晴が見出みいだす景色は、「ちょっと複雑」と彼がはにかみながら言うこの家庭環境あってこそ得られたものなのだから。

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1959589 0 書評 2021/04/04 05:00:00 2021/04/12 16:38:15 ははのれんあい=泉祥平撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/04/20210403-OYT8I50047-T.jpg?type=thumbnail

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