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『論語』 渡邉義浩著 講談社選書メチエ  2090円

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朱熹以前の注釈 味わう

評・中島隆博(哲学者・東京大教授)

◇わたなべ・よしひろ=1962年生まれ。早稲田大文学学術院教授。専攻は中国古代史。著書に『「三国志」の政治と思想』など。
◇わたなべ・よしひろ=1962年生まれ。早稲田大文学学術院教授。専攻は中国古代史。著書に『「三国志」の政治と思想』など。

 『論語』は不思議な書物である。それは児童の教育に用いられた一方で、孔子の深遠な教えに迫るべく、優れた学者たちが渾身こんしんの力を込めて注釈し続けるものであった。日本でよく読まれている『論語』の多くは、南宋の朱熹しゅきの注釈に基づいている。それは、朱子学の体系性のもと、「宇宙に根拠づけられた道の完全な体現者として孔子を見る」ものだ。ところが、本書が主に扱うのは、「新注」と呼ばれる朱熹が注釈する以前の古い解釈である古注だ。

 古い聖典の多くがそうであるように、『論語』もまた複数のテキストと解釈の複合体であって、その成立と変容の過程は実に複雑である。とりわけ近年は考古学的な発見もあり、文献学的な探究とあわせて議論は熱を帯びている。そのなかでも特に、中国新疆しんきょうウイグル自治区のトルファンで発見された鄭玄じょうげんの『論語注』の一部は重要である。それは論語を学んでいた唐の十二歳の卜天寿ぼくてんじゅが書き写したものだ。それによると、後漢の優れた儒学者である鄭玄は、孔子を完全無欠の聖人としてではなく、誤りも認めた上で、『論語』をそれ以外の経書と連絡させて、体系的に解釈した。具体的には、『周礼』を頂点とする礼の体系に『論語』を統合したのである。しかし、十二歳の子どもにとって、鄭玄は難しすぎたようで、勉強から早く解放されたいという詩が書きつけられている。

 『論語』の解釈史においてもう一つ重要なのは、魏の学者、何晏かあんの『論語集解』である。幸いなことに、著者の編集による『全譯論語集解』上下(汲古書院)が出されており、平易な訳文で全文を読むことができる。老荘思想と儒教を兼ねる玄学げんがくを創始した何晏の解釈の特徴は、著者によると「けん」にある。それは諸家の説を兼ね合わせるだけでなく、老荘と儒教をともに貫く道にもとづいた統治方法を『論語』に読み取るものであった。

 本書はそれらの古注に目配りしながら、『論語』のもう一つの読み方を豊かに提示している。古典の複雑微妙な味を是非ご賞味いただきたい。

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2037907 0 書評 2021/05/09 05:00:00 2021/05/17 16:34:07 「論語」(16日、東京都千代田区で)=飯島啓太撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/05/20210508-OYT8I50043-T.jpg?type=thumbnail

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