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越えていく人 南米、日系の若者たちをたずねて 神里雄大著 亜紀書房 1980円

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移民の子孫 豊かな営み

評・橋本倫史(ノンフィクションライター)

◇かみさと・ゆうだい=1982年生まれ。2018年、『バルパライソの長い坂をくだる話』で岸田國士戯曲賞。
◇かみさと・ゆうだい=1982年生まれ。2018年、『バルパライソの長い坂をくだる話』で岸田國士戯曲賞。

 「移民」という言葉から、あなたは何を想像するだろう。おそらく、多くの人は外国から日本に渡ってくる人たちを想像するのではないか。だが、わずか半世紀前まで、日本は数多くの移民を世界に送り出す国だった。

 著者はペルーの首都・リマに生まれ、生後半年で日本に渡り、神奈川県で育った演劇作家だ。日系移民の子孫にあたる彼のもとに、ある日「ペルーに関するパフォーマンスを」と依頼が舞い込む。だが、当時の記憶は頼りないものになっており、語れることはほとんどなかった。今もリマに暮らす祖母を置き去りにしてきたような気まずさをおぼえた著者は、南米へと旅立ち、日本人移住地を訪ね歩く。本書はその旅の記録だ。

 ひとくちに「日本人移住地」と言っても、その暮らしぶりは様々だ。今なお日本語で会話がなされる移住地もあれば、言葉は現地のものに変わったが、文化や伝統は継承されている移住地もあり、早々に日本人として生きることを断念し、現地化した移住地もある。当初は「自分はナニジンなのかという問い」にこだわっていた著者も、その問いを捨て、その土地と、そこらで暮らすひとびとの姿を、先入観抜きに捉えようとする。彼らの身体には、日本語と現地語が同居しており、たとえばパラグアイの居住地では「サッカーを遊ぶ」という言い回しと出会う。居住地で出会う言語感覚に、著者は「日本語の拡張」を見出みいだし、「うらやましいとともに興奮する」。

 本書を読みながら、自分が移民の子として生まれていたらと――あるいは自分自身が移民となっていたらと想像する。一世から二世、二世から三世と世代が下るにつれ、日本の文化と現地の文化が混ざり合ってゆく。それを日本文化の衰退と批判するのではなく、著者のように日本文化の拡張と捉える好奇心を持っていたいと思う。境界線を越えていくことは、なんと豊かなことだったのかと、この状況下で痛感する。

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2037913 0 書評 2021/05/09 05:00:00 2021/05/17 16:33:08 越えていく人、南米、日系の若者たちをたずねて(16日、東京都千代田区で)=飯島啓太撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/05/20210508-OYT8I50045-T.jpg?type=thumbnail

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