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感染症と五輪 虚実交錯
評・梅内美華子(歌人)
「疫」の字が私たちの日常に不安と暗い影を落としてきたコロナ禍。書名の「馬疫」は物々しくぞくっとさせる。
舞台は2024年、パリオリンピック開催が不可能になり2021年に続いて東京で行われることになった年。馬術競技に日本の馬を貸与する審査会で異変が起きる。馬インフルエンザであった。ウイルスはどこから来たのか。高熱や
獣医師で国立感染症研究所の研究員である一ノ瀬
コロナ禍と五輪開催の不安がある今、フィクションとノンフィクションが交錯するような感覚を覚える小説である。第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞したデビュー作。
凶暴化した馬が駿美たちの車を襲いフロントガラスを突き破ったり、犬にも感染したという情報にペットが捨てられ野犬が群れをなしたりするなど怖い場面もある。動物たちの苦しみはまさに鏡である。常識や倫理感を失い暴走していたのは人間であり、終わりが見えないのは人間の欲であったのだと。