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日本語とにらめっこ 見えないぼくの学習奮闘記 モハメド・オマル・アブディン著 河路由佳 聞き手・構成 白水社 2200円

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天才に学ぶ語学学習

評・飯間浩明(国語辞典編纂者)

◇Mohamed Omer Abdin=1978年、スーダン生まれ。著書に『わが盲想』◇かわじ・ゆか=杏林大特任教授。
◇Mohamed Omer Abdin=1978年、スーダン生まれ。著書に『わが盲想』◇かわじ・ゆか=杏林大特任教授。

 スーダン生まれの著者は12歳で視力を失った後、努力して大学に入ります。在学中、日本に留学する機会を得て、 鍼灸しんきゅう を専攻しながら日本語を勉強。現在は、国際政治の研究者として日本語で論文も書くし、軽妙なエッセーも書きます。つまり、日本語のプロです。

 語学学習者として並み外れた能力と熱意を持った人であり、誰もがまねをして語学力をアップできるかどうかは分かりません。でも、語学の天才に学ぶところも多いはずです。

 目の見えない著者が、どうやって複雑な漢字に立ち向かったかは興味を引かれます。「 咽乾いんかん 」という東洋医学の用語は、漢字の形を説明されてもぴんと来ない。でも、「咽」は「のど」、「乾」は「かわく」と分かれば、意味が理解できます。音読みと訓読みが頭の中で結びついてさえいれば、漢字は使えるのです。

 あるいは、 語彙ごい を増やすには多読が必要だが、どう実現するか。著者は、点字図書もさることながら、録音図書の文学作品を多く聴くようになります。漢字の多い文章も、耳で聴くぶんには障壁になりませんでした。戦争時代を描いた三浦綾子『銃口』は、故国スーダンの状況を思わせ、印象に残っているそうです。

 そして、語学学習に威力を発揮したのはパソコンでした。文章がテキストデータになっていれば、音声読み上げソフトがどんどん音読してくれます。官房長官(当時)の「 すが さん」をパソコンが「かんさん」と誤読しても、「かん=すが」という音訓の結びつきが頭の中にあれば問題ない、というのは面白く思いました。

 辞書を使うことはないと著者は述べます。パソコンでも調べられるけれど、人に聞いたほうが深く頭に残る。自分が書くときも、頭の中にあることばを使って書くので、独特な表現が生まれる。なるほどと思いつつ、辞書を作る私としては、そんな著者にも喜んでもらえる辞書ができないものか、と考え込みました。

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2104391 0 書評 2021/06/06 05:00:00 2021/07/21 11:37:32 日本語とにらめっこ(28日午後5時7分、東京都千代田区区で)=木田諒一朗撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210605-OYT8I50052-T.jpg?type=thumbnail

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