耳を傾けたい現場の声
評・加藤聖文(歴史学者・国文学研究資料館准教授)
◇いかわ・なおこ=1967年生まれ。文筆業。著書に『シェフを「つづける」ということ』など。
為政者は是非読んで欲しい。新型コロナウイルスの感染拡大により最初に緊急事態宣言が出されてから1年2ヶ月。何度も拡大を繰り返す感染は、いつ終息するか
未
だ先が見えてこない。
そうしたなか、飲食店は感染源としてとかく「悪者」扱いされ、時短から休業、酒類の提供禁止と宣言のたびに受難の厳しさが増している。コロナ禍前、東京は世界的なグルメの街だの、日本の食文化は世界一だのとさんざんもてはやしてもいざとなればこれが現実。だが、つぶれる店がある一方で生き抜いている店もある。生き抜く力はどこから湧き出ているのか?
確かに、緊急事態下の生活に「不要」といってしまえばその通り。しかし、それでも人は外食するのはなぜだろう。本書に登場する34人の料理人の言葉を聞くとそんな疑問も氷解した。
彼ら彼女らは、人との
繋
がりを誰よりも求めているから料理を作る。その繋がりを断ち切られた時の苦しさは想像を絶する。休業する人もいればしない人もいる。テイクアウトに活路を
見出
す人もいれば対面にこだわる人もいる。でも共通するのは、自分で考え自分の力で生き抜こうと決意していること。
誰の話からも進むも地獄、
退
くも地獄のような状況なのに、なぜか
美味
しそうな話が見え隠れする。やはり誰もが食べ物の話になると生き生きしていて、みんなに食べてもらいたいという思いが人一倍強く伝わってくる。こんな店があるんだという驚きとともに絶対食べに行ってみたくなった。「レストラン」とは、「心と体を回復させる」というのが語源だそうだ。
そして、多くのシェフたちが口を
揃
えるのは、コロナ後の世界はコロナ前には戻らないということ。彼らはもう未来を見据えて動き始めている。為政者は、彼らの声に耳を傾け、やがて訪れるコロナ後、「経済活動再開」という安っぽいスローガンでは無く、哲学を持ってこれからの社会の有り様を語るべきだ。