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うん古典 うんこで読み解く日本の歴史 大塚ひかり著 新潮社 1705円

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人間の営み 縦横無尽に

評・梅内美華子(歌人)

◇おおつか・ひかり=1961年、横浜市生まれ。古典エッセイスト。著書に『全訳 源氏物語』『えろまん』など。
◇おおつか・ひかり=1961年、横浜市生まれ。古典エッセイスト。著書に『全訳 源氏物語』『えろまん』など。

 当たり前の生理現象なのに口に出すのが はばか られる、そんな人間の営みと心性をいにしえの文献から集め明快かつ縦横無尽に語る。

 それは『古事記』の神話まで遡る。イザナミが火の神を生む激痛の中で くそ からハニヤスビメノ神、 尿ゆまり からはワクムスヒノ神が生まれた。その子が伊勢神宮外宮に まつ られる食物神のトヨウケビメノ神という。古代の信仰は生命の循環と再生の力をすでに見通していたのだった。

 『万葉集』の〈 ●莢(ざうけふ) に  ひおほとれる  屎葛くそかづら  絶ゆることなく  宮仕みやつか へせむ〉の歌はヘクソカズラのこと。万葉の時代から何とも 不憫ふびん な名前が付けられていたものだ。宮仕えの厳粛さを自虐的な笑いに変えて乗り切ろうとするたくましい歌。言葉遊びによる「真面目な歌へのもどき」であるが、マイナーな役回りとしての歴史は古いのだとわかる。

 (●はくさかんむりの下に「白」、そのさらに下に「七」)

  けが れ、不浄の面が強化されていく契機となったのが源信の『往生要集』に説かれた 厭離穢土えんりえど の思想。失恋相手の女を嫌いになるためにその「 はこ (便器)」を盗むという『今昔物語集』などの王朝文学に著者は仏教思想の影響を 見出みいだ し鋭く切り込む。「どんなに美しい人間も一皮むけば……」「この世の人ではなかったのだ」――文学史上でも特異で珍奇なエピソードに人間の欲望と罪深さを のぞ くことになる。

 道元の『正法眼蔵』にある「 東司とうす 」の作法は己を律する緊張感に満ち不浄を聖に転ずる、まさにトイレ版修行。たくさんの「うんこ話」から奮闘の有り様が浮かび上がってくる。

 「破壊力」「創造力」「批判力」と著者はうんこの効力を たた える。嫌われものでポジションの低い存在は、肥料となりあるいは 放埓ほうらつ な笑いとなりいつも底から支えてきたのである。それを教えてくれる古典といにしえ人の奥深さ。そして水に流しておしまいにし消臭に躍起になっている現代、下水の行く末は海である。付き合いは永遠に続く。

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使い方
2231698 0 書評 2021/07/25 05:00:00 2021/08/03 12:17:22 書評7月25日付け用(8日、東京都千代田区で)=高橋美帆撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/07/20210724-OYT8I50027-T.jpg?type=thumbnail

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