関係人口の社会学 人口減少時代の地域再生 田中輝美著 大阪大学出版会 3520円

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「よそ者」が介する活性化

評・稲野和利(ふるさと財団理事長)

◇たなか・てるみ=島根県浜田市生まれ。山陰中央新報社の記者やフリーのローカルジャーナリストを経て、島根県立大准教授。
◇たなか・てるみ=島根県浜田市生まれ。山陰中央新報社の記者やフリーのローカルジャーナリストを経て、島根県立大准教授。

 「地域再生」は我が国における大きな課題の一つであるが、本格的な人口減少時代を迎えた中にあって、「人口という量的評価」に とら われ過ぎていてはその正しい道筋を見誤りかねない。本書は、「関係人口」という量的ではない概念を用いながら、地域再生にとって必要な要素を、人という側面から捉え直した労作である。島根県は、現在の人口が大正時代の人口を下回る全国唯一の県だそうである。その島根県でローカルジャーナリストとして活動し、今春からは島根県立大学地域政策学部准教授を務める著者の問題意識は研ぎ澄まされている。

 関係人口とは移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもなく、「特定の地域に継続的に関心を持ち、関わるよそ者」と定義される。「移住と観光の二つで人を集めることはどの地域でも難しい」なか、誰が地域再生を担うのかという問いに対して、本書は関係人口という切り口から迫る。地域唯一の高校が廃校寸前の状態から魅力ある高校へと変身を遂げた島根県 海士あま 町の事例、シャッター通り商店街だった島根県 江津ごうつ 市のJR駅前商店街を空き家バンク制度の活用などにより活性化した事例、過疎化した集落において災害時の支援体制の構築など地域住民が安心して暮らし続けられる環境整備が成った香川県まんのう町の事例。3件はいずれも関係人口が地域再生に関わったものだ。

 共通するのは、地域住民が関係人口を 見出みいだ し、関係人口というよそ者が触媒的に機能することにより次第に主体が地域住民に移り、関係人口が去っても再び同種のアプローチが可能な方法論を地域住民が手に入れることにより地域再生サイクルが完成するという形である。3地域とも人口の減少が変らず続いているのにそれが再生と呼ばれるのは、再生という言葉の多様性を現わしている。「再生したものは、地域住民という主体の意識であった」という本文中の言葉こそが本質をついているのであろう。ここにあるのは、経済合理性の追求だけでは到達できない、 ぬく もりのある再生だ。

 

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2251567 0 書評 2021/08/01 05:00:00 2021/08/11 10:24:32 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/07/20210731-OYT8I50023-T.jpg?type=thumbnail

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