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草のみずみずしさ 感情と自然の文化史 アラン・コルバン著 藤原書店 2970円

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人との関わり 紡ぐ物語

評・長田育恵(劇作家)

◇Alain Corbin=1936年生まれ。パリ第1大で19世紀史の講座を担当。現在は名誉教授。
◇Alain Corbin=1936年生まれ。パリ第1大で19世紀史の講座を担当。現在は名誉教授。

 感情史研究の第一人者である著者が開示してみせたのは、人間が草と共にあることで き立てられてきた情動に着目し、豊潤な引用を糸として織り上げた 精緻せいち で優美なタペストリーだ。引用元は創世神話から古代ローマ詩人、ユゴーやワーズワースらロマン主義文学者、フィリップ・ジャコテなど現代詩人まで多岐にわたる。古代から現代までの西洋文学・思想において、人間の感情がいかに凝視され、言葉にされてきたかを、草という独自の切り口から見渡した。

 まず著者は草と人間の思想的な結びつきから語り出す。創世記によると草の創造は人間の創造に先立ち、始原の風景を描き出すという。草をアニミズムの源泉と 見做みな した人間は、波打つ草原また緑色自体に、生命力・永続性・沈黙・夢想・平穏などのメッセージを 見出みいだ してきた。

 そして人が幼少期を過ごす草原は、嗅覚と視覚の無意識的記憶の 揺籃ようらん となる。うつ伏せた時の青い香りや干し草の匂いなど、その極小の時間の思い出は、草と郷愁を強固に結びつける。

 次いで著者は、草の形態へと視点を変える。緑地や花壇など自然を抑制することで儀礼的な美を創出させた草の形態は、権力者の象徴ともなった。農奴の君主への隷属、植民地開拓政策として庭園へも 怜悧れいり な視線を向けたのち、いよいよ情動が規制と抑圧を くぐ り、再び自然のままの草原に駆け出していく様を描き出す。

 丈の高い草原は繁殖する生命の舞台であり、人にとっても官能と歓喜が交わる場となってきた。緑に対する白い素肌、草の 絨毯じゅうたん に横たわる感触など壮大な自然は五感を掻き立てる。様々な文学者たちが つづ り上げた生命の 謳歌おうか ののち、人間は墓地へ。草の中の死という主題で終幕。

 本書は西洋文化だけを土壌とするが、草と人の間にある情動の多様性と表現の美しさに静かな興奮を味わう。著者の広大なレファレンスに身を委ね、言葉の草原で未知なる文学の風に吹かれる体験となる。小倉孝誠、綾部麻美訳。

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2377833 0 書評 2021/09/19 05:00:00 2021/09/28 09:58:31 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/09/20210924-OYT8I50039-T.jpg?type=thumbnail

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