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チャイニーズ・タイプライター 漢字と技術の近代史 トーマス・S・マラニー著 中央公論新社 4950円

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中国語の活字化 苦闘史

評・小川さやか(文化人類学者 立命館大教授)

◇ThomasS.Mullaney=米スタンフォード大歴史学部教授。専攻は中国史。米コロンビア大で博士号を取得。
◇ThomasS.Mullaney=米スタンフォード大歴史学部教授。専攻は中国史。米コロンビア大で博士号を取得。

 本書は、中国語タイプライターというマニアックなテーマながら、近代中国の情報技術のグローバルヒストリーに関して豊かな考察を展開する、とてもおもしろい本だ。

 タイプライターは、「a」と打てば「a」と印字される機械だ。コンピューターのようにピンインを入力し、検索をかけ、適切な漢字を選択する機能はタイプライターにはなかった。では、アルファベットをもたない中国語のタイプライターは作れるのだろうか。活字盤に何万もの漢字を並べたら巨大な機械になってしまうし、キーを探し回る労力が書く労力に勝ってしまう。

 中国において活版印刷や電信など西欧由来の技術への適応は、近代化と中国語の不適応をめぐる議論とともに苦難の歴史を歩んだ。それは「中国語のパズル化」との格闘の歴史でもある。

 タイプライター開発以前、三つの異なるアプローチが試みられた。一つ目の常用アプローチは何万もの漢字の中から使用頻度が高く重要な漢字を統計的に導き出し、漢字の数を減らす試みだ。だがそれは中国語の 語彙ごい の豊かさや柔軟性を未来に失うものであり、何を常用とするかは政治的な問いだ。二つ目の合成アプローチは、漢字を偏や部首に分解し、その組み合わせのロジックを解明して合成する試みだ。だが筆画の美学に反する分解は、漢字の成り立ちをめぐる問いにぶつかる。最後の代用アプローチは、モールス信号のように、漢字を数字やアルファベットに置き換え、幾層もの仲介を挟んで伝送するもので、漢字の暗号化に関する論議も呼び込む。

 その後、二人の大志を抱いた中国人青年がタイプライターを開発し、常用アプローチによる大量生産の道が ひら かれていく。実情と異なるタイピストのジェンダー表象、万博や日本の軍事侵略の影響、ヒューマン・コンピューター・インタラクションの先取りまで、本書が技術言語学の方法で開示する漢字と技術の近代史は驚くべきものだ。比護遥訳。

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2377842 0 書評 2021/09/19 05:00:00 2021/09/28 10:00:51 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/09/20210924-OYT8I50034-T.jpg?type=thumbnail

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