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『米兵はなぜ裁かれないのか』信夫隆司著(みすず書房) 4180円

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基地問題 解決図る提言

評・加藤聖文(歴史学者・国文学研究資料館准教授)

◇しのぶ・たかし=1953年、山形県生まれ。日本大法学部特任教授。専門は国際政治学。著書に『米軍基地権と日米密約』など。
◇しのぶ・たかし=1953年、山形県生まれ。日本大法学部特任教授。専門は国際政治学。著書に『米軍基地権と日米密約』など。

 沖縄の米軍基地をめぐる問題は解決の道筋すら見えなくなっている。米軍基地問題の根幹は、もちろん日米安保体制そのものにあるとはいえ、まず具体的な課題を明らかにしてその改善策を図る……こうした地道な取り組みこそ基地問題解決に つな がるというのが著者の考えだ。

 基地問題――米兵の犯罪、米軍機の騒音や墜落などに見られる不平等な日米関係の根源は日米地位協定。近年、この協定が注目されているが、多くは歴史的経緯や対米従属の視点から協定の問題点を指摘するもの。それに対して、本書は米兵の刑事裁判権に的を絞り、一般社会には 馴染なじ みの薄い法律論の立場から客観的に何が課題で、どこに改善の余地があるのかを丹念に説き起こす。

 米軍に限らず軍隊という「敵と戦う組織」では、軍法会議のような一般社会と異なる特異な法域が存在する。米軍で組織内の犯罪に対して厳正であるのは、ひとえに軍規維持によって組織を守るためだ。しかし、組織外の犯罪に対しては組織防衛の論理が働かなくなるうえに、米国内世論(実際は条約批准権を握る上院)を意識するあまり、基地外で起きた米兵の犯罪への対応は甘くなる。その結果、米軍受入国の世論と 乖離かいり が生じる。

 本書によると、米軍は、〈1〉「公務犯罪」という曖昧な概念によって第一次裁判権を握ること、〈2〉受入国(日本)に刑事裁判権を放棄させること(これは「密約」で獲得)、〈3〉米軍が容疑者の身柄拘束を行い起訴されるまで引き渡さないこと(これも密約)、以上のような「三つの とりで 」によって米兵の権利を死守していると指摘する。そして、この三つの砦は日本に限らず、世界各地の米軍基地で築き上げられている。

 本書は、法律の厳格さよりも政治判断による「運用」を重視した結果、日米地位協定が硬直してしまった現実を浮かび上がらせる。そうしたなかで、ドイツ・韓国・フィリピン・アイスランド・オランダなどと比較しながら、2国間では突破できない「三つの砦」を多国間協調によって突破することを提唱する。先が見通せない基地問題解決の道標になりうる提言だ。

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2493455 0 書評 2021/11/05 05:19:00 2021/11/05 05:19:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/11/20211101-OYT8I50060-T.jpg?type=thumbnail

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