『ゴーストランド 幽霊のいるアメリカ史 Ghostland』コリン・ディッキー著(国書刊行会) 3960円
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正史に隠れた願望、怨念
評・森本あんり(神学者・国際基督教大教授)

幽霊はイギリス文学がお好きかと思ったら、アメリカにも結構出るらしい。それは、アメリカという国が理性と進歩の実現に向けてひた走る国で、その陰に多くの不安や社会的不正義が隠されているからだ、というのが本書の見立てである。幽霊話には、公認の正史には登場しない人々の集合的な願望や怨念が表現されている。いわばそれは、深く抑圧したはずの潜在意識が思いがけず表に現れてしまう、フロイト的な「失錯」行為の共同体版である。なかには、歴史的検証に堪えない話もある。それでも、物語は事後の理論的解釈として語られ続ける。幽霊屋敷は、過去と現在を
その一番手は、何といってもピューリタン時代に魔女裁判があったセーラムだろう。当時の担当判事の血をひくホーソーンの小説でも知られるが、狂気の背後には
西海岸のウィンチェスター・ハウスには、巨富をもつ孤独な錯乱女性の霊が今も住み着いている。彼女は、義父の開発した銃で先住民を駆逐し西部を開拓した白人たちの罪意識の結晶である。
幽霊に女性が多いのは日本でも同じだが、アメリカでは特に、男性聖職者が独占してきた来世との仲介業務を無用化する、という点が重要だった。20世紀に参政権を獲得する女性運動が心霊主義(スピリチュアリズム)を推進力の一つとしていた、という指摘も興味深い。
しかし、幽霊といえば白人ばかりが出てくるのはなぜか。著者によれば、それは奴隷制度が徹底して黒人を「魂のない体」として扱ったからである。魂がなければ幽霊にすらなれない。KKK(クー・クラックス・クラン)の
幽霊は、今も誕生している。経済破綻したデトロイトの