『都市を上映せよ ソ連映画が築いたスターリニズムの建築空間』本田晃子著(東京大学出版会) 3740円/『ソヴィエト宮殿 建設計画の誕生から頓挫まで』鈴木佑也著(水声社) 6600円

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権威を飾る建築、映画

評・小川哲(作家)

◇ほんだ・あきこ=岡山大准教授◇すずき・ゆうや=新潟国際情報大准教授。両氏とも、ロシア建築史や表象文化論などを研究。
◇ほんだ・あきこ=岡山大准教授◇すずき・ゆうや=新潟国際情報大准教授。両氏とも、ロシア建築史や表象文化論などを研究。

 全体主義国家は、どのようにして大衆の心を つか むのだろうか。

『人類冬眠計画 生死のはざまに踏み込む』砂川玄志郎著(岩波科学ライブラリー) 1320円

 スターリン時代のソ連において1930年代半ばから推し進められた「社会主義リアリズム」という理念は、芸術作品を政府の方針によって統制しようという試みだった。本田晃子『都市を上映せよ』では、ソ連において、国家権力がどのように建築と映画を利用して大衆の心を操作していたのかを、具体的な建築や映画作品を取り上げて分析している。セルゲイ・エイゼンシテインの「全線」より始まり、ゲオルギー・ダネリヤの「僕はモスクワを歩く」、アントン・メゲルディチェフの「メトロ42」に至るまで、各年代を象徴する作品を扱っており、スターリン時代のソ連から、ソ連崩壊後の作品までと幅広い。それぞれの作品の分析を通じて、権力と映画と建築がどのように絡み合い、国家のイメージを作り上げてきたのかを明快に考察している。

 鈴木佑也『ソヴィエト宮殿』は、1930年代にソ連で計画された壮大な建築プロジェクトの 顛末てんまつ を明らかにする本である。ソヴィエト宮殿とは、社会主義建設に向けた建築芸術的な記念碑である。高さ415メートル、頂部には50メートルを超える巨大なレーニン像を設置するという計画のもと、37年に建設が開始された。当時世界で最も高い建築物となるはずだったこの建築は、技術の問題や資材の不足など、様々な問題を抱えたまま第2次世界大戦を迎え、結果として基礎工事の段階で凍結されてしまう。本書はソヴィエト宮殿という建築が、大衆にいかにして視覚イメージを植え付け、価値体系の形成に寄与してきたかを、当時のアーカイブ資料を参照しつつ丁寧に追っていく労作である。

 昨今の情勢は、権力者が情報を統制して権威を維持し、結果として他国へ侵略して市民の平和を脅かすという行為が、冷戦の終結によってこの世から消え去ったわけではないことを示している。

 今この二つの書物を読むことは、東欧で起こっている悲惨な出来事を理解する助けにもなるだろう。

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2825865 0 書評 2022/03/11 05:20:00 2022/03/11 05:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/03/20220307-OYT8I50094-T.jpg?type=thumbnail

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