『都市を上映せよ ソ連映画が築いたスターリニズムの建築空間』本田晃子著(東京大学出版会) 3740円/『ソヴィエト宮殿 建設計画の誕生から頓挫まで』鈴木佑也著(水声社) 6600円
完了しました
権威を飾る建築、映画
評・小川哲(作家)

全体主義国家は、どのようにして大衆の心を
スターリン時代のソ連において1930年代半ばから推し進められた「社会主義リアリズム」という理念は、芸術作品を政府の方針によって統制しようという試みだった。本田晃子『都市を上映せよ』では、ソ連において、国家権力がどのように建築と映画を利用して大衆の心を操作していたのかを、具体的な建築や映画作品を取り上げて分析している。セルゲイ・エイゼンシテインの「全線」より始まり、ゲオルギー・ダネリヤの「僕はモスクワを歩く」、アントン・メゲルディチェフの「メトロ42」に至るまで、各年代を象徴する作品を扱っており、スターリン時代のソ連から、ソ連崩壊後の作品までと幅広い。それぞれの作品の分析を通じて、権力と映画と建築がどのように絡み合い、国家のイメージを作り上げてきたのかを明快に考察している。
鈴木佑也『ソヴィエト宮殿』は、1930年代にソ連で計画された壮大な建築プロジェクトの
昨今の情勢は、権力者が情報を統制して権威を維持し、結果として他国へ侵略して市民の平和を脅かすという行為が、冷戦の終結によってこの世から消え去ったわけではないことを示している。
今この二つの書物を読むことは、東欧で起こっている悲惨な出来事を理解する助けにもなるだろう。