『ピノ:PINO』村上たかし著(双葉社) 1210円

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

ロボットから教わる心

評・鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)

◇むらかみ・たかし=1965年生まれ。漫画家。著書に『ぱじ』『星守る犬』など。両作品は映像化もされた。
◇むらかみ・たかし=1965年生まれ。漫画家。著書に『ぱじ』『星守る犬』など。両作品は映像化もされた。

 暴力と危険がいっぱいの世界と、ふれあいと愛に満ちた世界のどちらが好きか。人間ならば後者を選ぶだろうが、ロボットにとっては、いいも悪いもないであろう。彼らは入力されるデータをあらかじめ作られたプログラムで処理し、行動する無機的存在だからだ。

『中庸民主主義 ミーノクラシーの政治思想 (原題)중용의 정치사상』崔相龍著(筑摩選書) 1760円/『わかりあえない他者と生きる』マルクス・ガブリエル著 大野和基インタビュー・編(PHP新書) 1122円

 だが、ロボットが心を持ったとしたら――。人間の知能を超えたAIを搭載する人型の量産ロボット、ピノたちを主人公にしたこのSF漫画は、ある限界状況で心を持った2体のピノの行動変容、世界の見え方の変化を鮮やかに描くことで、心という謎に迫る傑作といってよい。

 前半では苦い涙がこぼれる。動物実験や地雷除去などリスクの多い場で働くピノたちは、充電さえすれば文句も言わず、働き続けていたが、ある日、動物実験禁止に伴い、1体のピノがいる研究所が爆破処分されることになる。その命令通り、起爆装置のボタンを押したピノだが、突如「誤作動」し、ある行動に出る……。

 もう一体のピノは介護ロボで、認知症になったおばあさんに、「サトルちゃん」と亡き息子の名前で呼ばれ、仲良く暮らしている。ピノはやさしいのではない。女性の脳内ドーパミンの分泌量の変化などを瞬時に察知し、きめ細やかな対応ができるロボットにすぎない。このピノがある出来事をきっかけに心を持った後にとった行動とは……。3度読み、展開がわかっているのに3度とも熱いものがこみあげた。

 胸がときめく。頭にくる。 (はらわた) が煮えくりかえるのも相手がいるからで、心とは、ふれあい方次第で千変万化、色や形まで変えることをこの本は伝える。

 何より、人間を安心させるように子どもサイズで、「あざとくデザイン」されたピノが、心を持ち、表情や言葉が変化するにつれて、ますますかわいくなり、思わず抱きしめたくなる。ロボットから、心の「かけがえのなさ」について教わるとは思いもよらなかった。

スクラップは会員限定です

使い方
「エンタメ・文化」の最新記事一覧
3009075 0 書評 2022/05/20 05:20:00 2022/06/10 11:27:24 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/05/20220516-OYT8I50052-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込みキャンペーン

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)