『ブックセラーの歴史 知識と発見を伝える出版・書店・流通の2000年 Une Histoire des libraires et de la librairie』ジャン=イヴ・モリエ著(原書房) 4620円
完了しました
書籍販売 復活のヒント
評・小川哲(作家)

この何年かの間で、よく行く書店がいくつも閉店した。作家として出版不況のことはよく知っているし、電子書籍の市場が伸びていることもわかっている。街から書店が減っていく現実を残念に思う気持ちとともに、それが時代の流れである以上、ある程度は仕方ないのかもしれないという諦めも感じている。
本書は、書籍販売業が誕生してから、現代に至るまでの通史を記した力作だ。フランスを中心に、世界中で書籍がどのように販売されてきたかを知ることができる。古代シュメールの時代より、書籍販売業には五千年の歴史がある。粘土板に彫りつけられていた文字は、やがてパピルスに記され、羊皮紙に書写された。印刷本が流通し、書籍商が活躍した。出版社と書店が分離し、書店の数が増えていく。すると、書籍に関わる人々が世論の形成に影響力を持つようになっていく。為政者は書籍商たちの権力を制限し、検閲を始める。そうやって締めつけられるようになっても、本と書店が消えることはなかった。貸本図書館が広まり、本を買うことのできない人々が読書をするようになる。専門書店が誕生し、新たな需要に応える。古書取引が活発化し、
現代の書籍販売業をまとめた第三部では、書店の減少や活字離れといった日本で発生している事態が、かならずしも世界中で起こっていることではないことを教えてくれる。街灯を背にして露店を設置し、教科書のコピーや古本を売る〈電柱の本屋〉がアフリカの国々で広がり、地域の正規書店の多くを駆逐する勢いだという。ブラジルでは、人気のある物語や詩、信仰と迷信などを混ぜあわせた〈コルデル〉が物干し
今回が初めてではない。長い歴史の中で、書籍販売業は何度も苦境に立たされてきた。本書には「本を売る」という行為について考えるヒントがいくつも隠されている。松永りえ訳。