『フランスの高校生が学んでいる10人の哲学者 Les dix philosophes incontournables du bac philo』シャルル・ペパン著(草思社) 1650円
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「思考」に触れる受験参考書
評・中島隆博(哲学者・東京大教授)

フランスの高校では哲学が必修で、大学入学資格試験のバカロレアでは哲学の筆記試験が四時間課せられる。本書はそのための受験参考書で、プラトンからサルトルまで十人の哲学者を取り上げている。構成は、その哲学の概要、その哲学者からのアドバイス、そしてその哲学者の問題発言の三つからなる。
概要のまとめ方にもうならされるが、興味を
問題発言の例としては、カントの「好きなだけ、なんでも好きなことについて熟考せよ。ただし、服従せよ」を取り上げておきたい。これは『
ところが、カントは、その上で秩序に服従せよと言う。「思考が世界を変えることが哲学、なかでもカント哲学だと思っていたのに、なんだか裏切られたような印象をもつかもしれない」。その後、フランス革命が起きると、カントはその暴力性に反感を抱き、決定的に保守化してしまったと著者は述べる。こうして、人間の思考の限界を画定しようとしたカント自身、歴史的な限界のなかで思考していたことが明らかにされる。そして、ここまで問うのも哲学なのだ。
自由と喜びとしての哲学、限界を問い続ける哲学に触れたい読者に薦めたい一冊である。永田千奈訳。