『フランスの高校生が学んでいる10人の哲学者 Les dix philosophes incontournables du bac philo』シャルル・ペパン著(草思社) 1650円

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「思考」に触れる受験参考書

評・中島隆博(哲学者・東京大教授)

◇Charles Pépin=1973年生まれ。フランスの哲学者、作家。高校などで哲学を教えるかたわら、テレビ出演も多い。
◇Charles Pépin=1973年生まれ。フランスの哲学者、作家。高校などで哲学を教えるかたわら、テレビ出演も多い。

 フランスの高校では哲学が必修で、大学入学資格試験のバカロレアでは哲学の筆記試験が四時間課せられる。本書はそのための受験参考書で、プラトンからサルトルまで十人の哲学者を取り上げている。構成は、その哲学の概要、その哲学者からのアドバイス、そしてその哲学者の問題発言の三つからなる。

『「大英博物館所蔵 未発表版下絵 葛飾北斎 万物絵本大全(ばんもつえほんだいぜん)」』ティモシー・クラーク著(朝日新聞出版) 4378円

 概要のまとめ方にもうならされるが、興味を かれるのは、アドバイスと問題発言だ。アドバイスの例として、「退屈な人生を生き、何の感動も覚えないあなた」に、ニーチェの「 永劫えいごう 回帰」を試すことが勧められる。それは、生活のある瞬間を、「永遠に繰り返されてもいいくらい」愛しているかと問うことだ。それによって、「永劫回帰してもいい時間と無駄な時間が仕分けされていく」。しかし、この「永劫回帰」の解釈はジル・ドゥルーズというフランスの哲学者に負ったもので、かなり独特なものだ。ニーチェの概念を字義通りに読むというよりは、自ら主体的に読解するというもので、哲学の自由と喜びがここにはある。

 問題発言の例としては、カントの「好きなだけ、なんでも好きなことについて熟考せよ。ただし、服従せよ」を取り上げておきたい。これは『 啓蒙けいもう とは何か』の一節である。この本は、宗教という後見人に判断を委ねて自分で考えようとしない未成熟な状態から脱して、自ら考えることの重要性を主張したものだ。

 ところが、カントは、その上で秩序に服従せよと言う。「思考が世界を変えることが哲学、なかでもカント哲学だと思っていたのに、なんだか裏切られたような印象をもつかもしれない」。その後、フランス革命が起きると、カントはその暴力性に反感を抱き、決定的に保守化してしまったと著者は述べる。こうして、人間の思考の限界を画定しようとしたカント自身、歴史的な限界のなかで思考していたことが明らかにされる。そして、ここまで問うのも哲学なのだ。

 自由と喜びとしての哲学、限界を問い続ける哲学に触れたい読者に薦めたい一冊である。永田千奈訳。

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3031579 0 書評 2022/05/27 05:20:00 2022/05/26 12:03:29 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/05/20220524-OYT8I50036-T.jpg?type=thumbnail

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