徳は知なり 幸福に生きるための倫理学 ジュリア・アナス著

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生きやすさを得るコツ

春秋社 3400円
春秋社 3400円

 ◇評・山内志朗(倫理学者・慶応大教授)

 心がときめくかどうか、倫理学の要はそこにある。この本のタイトルは『徳は知なり』だ。倫理学ど真ん中である。だが、表面のマジメさとは裏腹にしなやかさとやさしさにちていて、幸福とは何か、徳とは何かを一緒に考えてくれる本だ。

 サブタイトルは「幸福に生きるための倫理学」である。幸福になるには徳が必要である。だが徳を概念として考えると話は難しくなる。

 いや、理解することで倫理的になれるわけではない。理解とは別次元で、心に浸透し、人を動かせなければ倫理も道徳も意味がない。

 徳とは何か。徳とは、それ自体で価値がある、つまり自己目的的である。失敗しても後悔しないということだ。何か他の目的のためになされることではない。散歩が失敗したり、用が出来て中断しても、散歩が未完成であることはない。だから、後悔は生じない。徳は行為の中に宿り、そこに幸福が現れる。

 心理学者チクセントミハイ(一九三四~)が語る「フロー体験」を著者は重視する。それ自体で価値を有して、その活動に従事する人が自己を意識していない夢中の状態だ。そういう行為は、失敗しても後悔することがない。徳を理解する鍵がある。

 徳とは技術というよりもコツであって、人生の生きやすさを得るためのものだ。人生を家づくりにたとえれば、損をしないことや見栄えの良さを大事にすることもできる。徳倫理学は住みやすさを指標とする。未来に向けての工夫、過去へのいたわり、周りの人々へのまなざし、そして何よりも自己への配慮が重要だ。

 人生にトリセツはない。練習も必要だ。倫理学は練習した様々な道筋を比較するための枠組みを与える。どれを選択するかは本人なのだ。

 「徳」とは人生を歩くための案内役だ。どの道を選ぶかは人それぞれに任される。選択の結果がもたらす帰結を地図として教えるのが徳倫理学だ。この本はその意味でよい道しるべになる。相澤康隆訳。

 ◇Julia Annas=1946年、英国生まれ。オックスフォード大卒。ハーバード大で博士号取得。アリゾナ大教授。

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578268 0 短評 2019/05/12 05:00:00 2019/05/20 13:29:34 2019/05/20 13:29:34 書評(3日、東京都千代田区で)=横山就平撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/05/20190511-OYT8I50043-T.jpg?type=thumbnail

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