「次、準備しよう」大杉漣さんは言葉を残し佐向大監督は不敵な快作を撮った…足立智充さん・玉置玲央さん主演「夜を走る」

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(C)2021「夜を走る」製作委員会
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主人公たちを囲む世界

 主人公たちが働くスクラップ工場で繰り返される機械の動きは日常に、形を変えられていく鉄くずは人間と、どこか重なって映る。工場もまた、佐向監督の映画にたびたび登場するものだ。ひきつけられるのだという。「すべて等価値というか、人間も機械も有機物も無機物も同じようなものという意識がどこかにある」

 こうも思うという。「日常の中で生きている人たちがいて、いろんなドラマがあるんですけれど、その世界には、どうしようもない圧倒的に大きなものがうごめいている。そういう圧倒的な壁というか、障害の存在が、工場という形をとって出てくるのかもしれない」。そもそも動き続ける工場機械の動きは、映像として魅惑的。「夜を走る」は、スクラップ工場で働く高校時代の友人に「すごく面白い場所だから、映画で使いなよ」と言われて見学しにいったのをきっかけに物語を考え始めたのだという。「これは本当に () になるなと思って」。実際の撮影で使ったのは別の工場だが、休日に機械を稼働させるなど全面的に協力してくれたという。

 もう一つ、象徴的な役割を果たすのは、秋本が車の中で聴いているラジオの気象通報だ。「まだ楽園」でも印象的に流れている。「無機質で、僕の中では、ただの情報を、しかも聞いたことのないような地名とかを均等に言うのって、すごくひかれるものがある」。ただし、今回の「夜を走る」の場合、秋本の変化と呼応するように不気味に響きだす。声の主は、古舘寛治さんだ。

(C)2021「夜を走る」製作委員会
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平凡な男とマルチバース

 ただ、一番の見所は、やはり、俳優たちの体を通して表現される人間模様だ。「結局みんな、日々、生きることに精いっぱいで、やらなきゃいけないことを何もやらない。そうしているうちにふと気づくと、ものすごくいびつなことになって取り返しがつかなくなる。爆発してしまう」

 主人公たちは何を考えているのか、くどくどと語ったりはしない。佐向監督は、俳優たちと丁寧に話をし、リハーサルを重ねた上で、最終的には表現を委ねた。「足立さんにも玉置さんにもよく言っていたのは、重くはしないでほしいということ」だったという。「(玉置さんが演じる)谷口に関しては、少し重さがあってもいいかもしれないんですけれど、(足立さんの)秋本に関しては軽く、できるだけ、そういう感じでいってほしいなと」

 空っぽだった秋本は、他者の負の空気を吸いこんで、さまざまな人々の「鏡」のような存在となり、それまでの秋本像と結び付かない行動を見せ始める。「今風に言うとマルチバース(多元的宇宙)みたいな、いろんなフェーズ(位相)に秋本がいるというのを後半で見せたいと思った」のだという。突然踊り出すなど、唐突なアクションに驚かされる場面もあるが、なぜか () に落ちる気がするのが、この映画の不思議な魅力だ。「瞬発力とかものごとに対するリアクションだけでほとんど組み立てている。何か内包して悩んでいるとか、そういう描写は秋本には必要ないと思ったし、おそらく足立さんもそれは思っている」

 何が起きているのか、言葉で説明できる「理由」を可能な限り排して、目に映るものを通して観客に響かせる物語を成立させた。「因果関係を描くだけでは、物語がそこに回収されてしまって、見なくてもわかるものになってしまう。それを取り払ったところで見えてくるものを見たい、見せたい」という。

「僕が見たいもの」が「みんなの見たいもの」に

 それが可能になったのは、「キャスト、スタッフの方々が本当に面白いと思ってきてくれて、面白くしようとしてくれた」からだ。「毎回そうなんですけれど、今回は特に、本当にそういう人たちが集まった。もともとは『僕が見たいもの』ってところから始まったんですけれど、それが彼らみんな、自分が見たいものって、意欲みたいなのがものすごい結集できたなって本当に思っています」

 大切にしたのは、「場の雰囲気」だ。「それってやっぱり大杉さんが『教誨師』の時にものすごく場の雰囲気を大事にされていたのが勉強になったし、教えてもらったところかな、とも思うんです」

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