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山田洋次監督、コロナ禍描くため後半内容変え「刻印」に…「キネマの神様」8・6公開

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新作ポスターのそばに立つ山田洋次監督。話す内容はどこまでも冷静だ
新作ポスターのそばに立つ山田洋次監督。話す内容はどこまでも冷静だ

 邦画界を代表する山田洋次監督(89)が、このほどスポーツ報知の単独インタビューに応じた。新作「キネマの神様」は東京五輪開催中の8月6日に公開される。コロナに倒れた志村けんさん(享年70)から沢田研二(73)に主役が交代する混乱の中で監督は「2020年の刻印。コロナを扱わないわけにはいかない」と後半の内容を変えた。公開延期を経て、封切りを控える「いま」何を思うのか。(内野小百美)

 「オリンピック中、仕事は忙しいのかい? 五輪はどうなるんだろうね」。山田監督は、取材者に突然質問してくることがある。こちらも似た問いを返す。「もともと自国第一の国威宣揚をいいと思わないのね。映画の公開も気になるし、不安になるから(五輪は)あまり考えないようにしている。でも大きな混乱になっていくと思うな」。表情に憂いがのぞく。インタビューしたのは、開会式騒動が激しさを増す前。「考えない」と言いながら、“本質”を見抜いていた。洞察力の鋭さは新作「キネマの神様」でも発揮されている。

 本来、昨冬封切りが、五輪ムード一色の中で初日を迎える。今作が語られる時、大半が主役交代の話で占められがちだ。現場が混乱する中、監督は後半の内容を思い切って変えた。コロナによる苦悩を描くためだ。病の正体が分からない流行初期での決断だった。

 「コロナの問題は絶対に避けられない。いや入れなければならない、と感じた。映画は現在で終わる。劇中のミニシアターのようなところが先に犠牲になる。劇場支配人が抱える絶望とともに描くべきだと思いましたね」。恐れていたこの予感も現実となった。撮影の1年後、都内有数の単館系映画館のアップリンクなどが閉館に追い込まれた。コロナ被害の恐ろしさを早々に見抜いていた。

 山田作品には「いま」が刻まれてきた。日本縦断を旅する一家を描いた「家族」(1970年、倍賞千恵子主演)では大阪万博の様子が映し出され、「男はつらいよ」(95年)では復興を遂げる阪神大震災後の神戸が取り上げられた。

 「“いま”を扱うのは、その時につくった映画だ、という刻印の意味がある。でも昨年撮っていた時、コロナが今も続くと予想だにしなかった。すっかり落ち着いているだろうと。落ち着くどころか終わりが全く分からない。僕の見通しは甘かったともいえる」

 「刻印」は覚悟の証しでもある。もし寅さんがいまも続いていたら。「『寅次郎、不要不急』という映画をつくっていたかもしれないな」と返ってきた。「『お前なんか、存在そのものが不要不急なんだ』と皆に言われてさ。でもさくらやマドンナが落ち込む寅に『ちっとも不要不急じゃないよ』と励ます…」。泉があふれるようにアイデアが浮かんでくる。

 9月で90歳。監督生活は60年に及ぶが、感性は研ぎ澄まされている。時代の変化、変貌する日本を見てきた。「これだけの記憶をたどれるのは僕だけの権利だと思っている。戦時中、いくら貧しくても小さな幸せがあった。いま豊かになった。でも幸せだな、生きていてよかったと思う瞬間が、いまどれだけあるんだろうね」。スクリーンからその「一瞬」を伝えたいがために、メガホンを執り続ける。

 ◆山田 洋次(やまだ・ようじ)1931年9月13日、大阪府生まれ。89歳。54年東大法学部卒。同年助監督として松竹入社。61年「二階の他人」で監督デビュー。69年「男はつらいよ」シリーズ開始。主な作品に77年「幸福の黄色いハンカチ」、02年「たそがれ清兵衛」、08年「母べえ」、16~18年「家族はつらいよ」シリーズ、15年「母と暮せば」、19年「男はつらいよ お帰り 寅さん」。08年日本芸術院会員、12年文化勲章を受章。

 ◆キネマの神様 松竹映画100周年記念作で原田マハ氏の小説が原作。ギャンブルに浸り、家族(宮本信子、寺島しのぶ)からもあきれられるゴウ(沢田研二)が唯一愛してやまないのが映画。なじみの名画座の館主テラシン(小林稔侍)とはかつて映画全盛の撮影所で一緒に働いた仲だ。若き日のゴウ(菅田将暉)とテラシン(野田洋次郎)は名監督やスター女優(北川景子)のそばで青春を送り、それぞれに転機が訪れる。

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2226332 1 エンタメ報知 2021/07/22 13:45:50 2021/07/22 13:45:58 2021/07/22 13:45:58 新作ポスターのそばに立つ山田洋次監督。話す内容はどこまでも冷静だ https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/07/20210721-064-OHT1I91272-L.jpg?type=thumbnail

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