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コロナ禍逆手に人気沸騰、音楽の達人たち
楽器演奏の動画を配信する「演奏系ユーチューバー」が存在感を発揮している。コロナ禍により在宅時間が増え、幅広い世代がユーチューブを頻繁に視聴するようになったことが背景にあるとみられる。(文化部 清川仁)
今年から始まった「楽器店大賞」が24日発表され、プレイヤー部門は、全国の楽器店と一般の投票により4人が選出された。「Cateen」名義で活躍するピアノの角野隼斗、サックスのユッコ・ミラーらユーチューブで多くのチャンネル登録者を抱える奏者ばかりが選ばれた。
テレビ出演などで、今年最も知名度を上げたのはピアノ系ユーチューバー、ハラミちゃんだが、支持を集める楽器の達人はまだまだいる。

ゲーム動画からピアノ演奏にシフト、登録170万人超…よみぃ
ピアニスト、よみぃはメインチャンネルの登録者が170万人を超え、ハラミちゃんに匹敵する人気者。中学1年生だった2011年からゲーム関連の動画を公開してきたが、幅広い年齢層のファンを獲得したのは、19年頃からピアノ演奏動画に本格的に取り組むようになってからだという。「以前から僕を知る10代のゲームファンのお母さんが、僕のピアノ演奏動画を見てくれている、なんて話を聞くようになった」と話す。
幼い頃からピアノを習い、オリジナル曲も発表する。特に持ち味を発揮しているのが、駅や公共機関に置かれ、自由にピアノを楽しめる「ストリートピアノ」の演奏。連弾をしたり、学生や駅員に変装したり、スリリングな演出を施し、聴衆の反応も映像に収める。
「ストリートピアノ」を本格的に各地で展開したのが、ヤマハの「LovePiano」プロジェクトだ。17年秋にプロジェクトを始めた山下有美子さんは「最初は細々と、18年頃から弾いてくれるユーチューバーと交流を始めた。19年1月に品川駅に設置してから、流れが変わってきた」と振り返る。
同年4月、東京都が都庁展望室に設置した“都庁ピアノ”は、来日外国人による情報拡散も手伝い、反響が広がった。コロナ下ではこれらの動きがストップしたが、山下さんは「ユーチューブの視聴が若い人から中高年に広がった」とみる。実際、よみぃのチャンネル登録者数は、19年初頭に10万人台だったのが、20年頭には70万に増加。現在は170万を突破している。コロナ下で、100万人を増やした計算になる。
プロのミュージシャンがコロナ禍以降、ユーチューブに参入するケースも増えたが、既に市場は経験豊富な演奏系ユーチューバーが支配しており、新規参入組は苦戦している。

スキー場のゴンドラにピアノ、乗客の前で演奏…ジェイコブ・コーラー
ジャズピアニストのジェイコブ・コーラー(登録者数・約20万人)は、気品漂う演奏で支持を得る。
近作は、景勝地などでピアノを弾く動画。山形・蔵王温泉スキー場ではゴンドラにピアノを運びこみ、松田聖子の「瑠璃色の地球」などを乗客の前で弾いた。「4年前から自然の中でピアノを弾いてミュージックビデオを撮っていたが、そこにストリートピアノの要素が合わさった感じ」という。
「ストリートピアノ」は2019年、よみぃから連弾に誘われて始めた。「ぶっつけ本番だったから緊張感があった。僕は完璧主義者だったけど、聴く人に喜んでもらえるならいいなと思うようになった」。09年に来日。ジャズ演奏家だけに、Jポップのしゃれたアレンジが得意だ。「和声が複雑で予測しにくい転調もある米津玄師の作品など、Jポップはアレンジのしがいがある曲が多い」。動画の字幕では、何を考えながら弾いているか、その曲のどういう点が素晴らしいのかなど、心の声を表示。音色とともに、字幕の文章でも視聴者を魅了している。

ライブと動画広告、収入は半々…ユッコ・ミラー
サックス奏者のユッコ・ミラー(登録者数・約20万人)は「自分がユーチューバーを見るのが好きで、なりたいと思った」。初めは音楽と関係ない動画を作成していたが、やはり注目を集めたのは演奏だった。
飛躍の契機が、2018年にアップしたアニメ「名探偵コナン」のテーマの演奏。最近、1000万回再生を突破した。自身の“不思議キャラ”と迫力ある演奏のギャップも面白い。
ジョウロやニンジンに穴を開けて演奏ができるかを試すシリーズも人気。成功のこつを「人目を気にしないこと。プロ奏者がやることか、と思う人もいるだろうけど、やりたいことをやるのが一番」と語る。
テレビ出演も増え、地方公演でも親子のファンも増えた。CDデビューは16年で、10月に4作目のアルバム「Colorful Drops」(キング)が出たばかり。「ライブなどの収入と、ユーチューブの広告収入は半々。動画1本作るのに3日以上かかるけど、コメントや再生回数の伸びが励みになり楽しい」