「この農場とアルバムの作り方は同じ」…音楽プロデューサー・小林武史さんが循環型農業の道に

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 千葉県の館山道木更津北インターチェンジを降りて曲がりくねった道を15分ほど走り、坂道を上ると、すり鉢状のひらけた土地を使った広大な農場が見えてくる。小麦やニンジン、レタスなどが育つ畑が広がり、乳牛や平飼いの鶏が生き生きと動き回る。

 「クルックフィールズ」(木更津市矢那)と名付けられた農地は、「次の世代にも使い続けられる農場」を目標に掲げ、ここで取れた食材を使ったレストランやチーズ工房が並ぶ。地下水をくみ上げて水道とし、下水は 濾過ろか して土に戻す。設置された太陽光パネルで8割の電気を賄う。

「多くの人が出会い、響き合い、気づきが生まれる場所を作りたい」と話す小林さん(木更津市のクルックフィールズで)
「多くの人が出会い、響き合い、気づきが生まれる場所を作りたい」と話す小林さん(木更津市のクルックフィールズで)

 「全てが循環した場所なのです」。農場をプロデュースした音楽家の小林武史さん(62)は静かに語る。「今の世界とは少し違った環境で新たな気づきを手にする。そんな場を作りたかった」。視線の先には、動植物と触れ合う子どもたちの姿がある。

名声と富を手にした後で

 小林さんは、サザンオールスターズやMr.Childrenなどを手がけた1990年代のJポップを代表する音楽プロデューサーだ。時はカラオケ人気を起爆剤に市場が急成長した時代。小林さんは、売れっ子の音楽家として名声と富を手にした。その一方で、利益ばかりを追い求める社会に違和感を感じていた。

 活動拠点を移した米ニューヨークで、目の前で事件に遭遇した。2001年9月11日の米同時テロだ。価値観を揺さぶられた。大量消費で成長を優先させ、人や自然、価値観を顧みない社会。惨劇は、それが生み出した結果ではないか。泣き叫ぶ人々や混乱する現場を見つめながら、「世界のいびつさ」を垣間見た出来事だった。

 「これからアーティストとして何ができるのか」。小林さんは、同じくニューヨークを拠点にする音楽家の坂本龍一さん(69)と共に、人類が抱える課題を学びながら探った。気になったのが、地球環境の悪化だった。「環境は国境を超えて捉えるべき問題。環境問題を中心に世界が一体感を持てば、その先に平和が見えるのではないか」。これこそ自分の進むべき道だと確信した。

「我々も自然の一部」

 03年には環境保全活動に取り組む団体に融資する市民バンク「ap bank」を坂本さんらと設立。持続可能な農業や生活を理念に、10年に前身となる農場を作り、19年にクルックフィールズを開設した。

 当初、知人から木更津の土地を紹介されると、考え込んだ。「東京と近すぎる」。だが、訪れてみると、小高い丘に囲まれ、閉ざされたような土地は「現実と隔離された別世界」。ここが最適だと思えた。

 木更津で活動を始めてから10年余り。環境問題への世間の関心も高まり、県内外から多くの人が集まるようになった。音楽と農業。方法は異なるが、本質は変わらないという。「多彩な人が集まり、活動する場を作ることがプロデューサーの仕事。共鳴し合い、思いを込めた一つの作品を作り上げる。この農場とアルバムの作り方は同じ」と小林さんは語る。

 穏やかな時間が流れる農場に込められている願いは、「持続可能な社会、そして平和」。「人間は、太陽光や微生物などあらゆる出会いに助けられ、生きている。この10年で、我々も循環する自然の一部なのだと痛感した。そこに本質的な豊かさがある」。小林さんはそう語気を強める。今年秋頃には図書館を開設し、全面的にオープンする。「クルックフィールズ・フォーエバー」。小林さんはそんな言葉を口ずさんだ。(萩原凱)

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2650146 0 音楽 2022/01/05 12:10:00 2022/01/05 12:33:48 2022/01/05 12:33:48 「多くの人が出会い、響き合い、気づきが生まれる場所を作りたい」と話す小林さん(6日、木更津市で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/01/20220104-OYT1I50123-T-e1641353623902.jpg?type=thumbnail

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