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日本を代表するバイオリニストの諏訪内晶子が、初めてJ・S・バッハの無伴奏バイオリン・ソナタとパルティータ全6曲を録音し、アルバム(デッカ)を出した。CDデビューからおよそ四半世紀、新たな名器を得て、西洋音楽の原点といえる作品を深く掘り下げた思いを聞いた。(文化部・松本良一)

毎日12時間練習「細部まで神経使った」
レコーディングは昨年夏、コロナ禍のオランダで行われた。「騒然とした状況の中、毎日12時間練習して臨みました。6曲をまとめて弾くのは本当にエネルギーがいる。細部まで神経を使った」。使っている楽器は新しく貸与された名器、グァルネリ・デル・ジェズだ。
「一昨年、それまで20年間弾いてきたストラディバリウスからデル・ジェズに替え、弾き方を一から変えました」。楽器の大きさや重さだけでなく、音色も異なるという。「ストラディバリウスは研ぎ澄まされた音がおのずと出てくる。デル・ジェズは深みのあるつややかな音を出すためには、演奏者から積極的に働きかけないといけない」
ストラディバリウスからの「大手術」
バイオリニストにとって「大手術」と言っていい経験が、バッハの音楽に人間味を与えたようだ。「ポリフォニー、特に無伴奏ソナタ第3番のフーガは大変でした」と話す。そうした苦心が演奏の内面において、技術的な完璧さを超えた何かを生み出したように感じられる。
演奏における変化は、2013年から自ら芸術監督となって始めた「国際音楽祭NIPPON」が関係しているのかもしれない。「調和の取れたアンサンブルが必要な室内楽は、抜きんでた音が求められるソリストの演奏スタイルとは別物。だから学ぶことは多い」。今年の同音楽祭でもバッハの無伴奏のほか、ブラームスの室内楽作品などを集中して取り上げる。
「感覚を研ぎ澄まし、本能で捉えた音楽を深めていきたい。そうして獲得したものは、最後までぶれることがありません」
同音楽祭の諏訪内出演公演(東京)は、2月16、18日ともに午後7時、初台・東京オペラシティコンサートホール(バッハ「無伴奏バイオリン・ソナタとパルティータ」全6曲を2日に分けて演奏)など。(電)0570・00・1212。