「講談界の秘宝」とコロナバケーション

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 「よみらくご」総合アドバイザー、演芸評論家の長井好弘さんが、演芸愛いっぱいのコラムをお届けします。

落語・講談・浪曲・諸芸――長井好弘’s eye

 新型コロナによる自粛で、大衆演芸の演じ手が高座から消えてしばらく経つ。一部の寄席は「三密」を避けながら営業を再開したが、まだまだ「完璧な形」とは程遠い状態だ。そういえば、寄席よりもちょっとだけ大きなあの国際的イベントも、「完璧な形での開催」以外の道を探さねばならなくなったのだが。

 良い意味でも悪い意味でも、今どきの人ではない演芸家たちはどうしているのか。中には、スマホやガラケーはメールのみ、オンラインに興味なく、好んで他人と交わらず、「武士は食わねど高楊枝」を地で行く「孤高の人」もいるはずだ。

 と、ここまで書いて、これらの条件にことごとく当てはまる人物が浮かんだ。

講談界の「秘宝」がイメージチェンジ? 柳家喬太郎(左)との2ショット
講談界の「秘宝」がイメージチェンジ? 柳家喬太郎(左)との2ショット

 神田愛山。先代神田山陽に入門して40数年というベテラン講談師である。声を張らず、終始静かな口調なのに、張り詰めた空気と緊迫感が迫ってくる。「天保水滸伝・三浦屋孫次郎の義侠」は静寂と迫力の侠客伝だ。

 「腕は一流。でも……暗いんです」

 芸の上では「おじさん」にあたる愛山を、人気者・神田伯山が講談のまくらで評しているが、まさにその通りの人なのだ。

 若き日にアルコール中毒で一時破門になるなど、酒の逸話は数多く(現在は断酒中)、眼光鋭い容貌も相まって、仲間や観客の間に「怖い人」「近づきがたい人」というイメージが浸透してしまった。

 ところが、伯山が繰り返し「暗い愛山」を語るうち、観客が「どんな人なの?」と興味を持ち始め、独演会に押し寄せた。この手の逸話はほかにもあるが(注1)、満員の客席を見て、「どういうことか」と愛山本人が目を丸くしたという。

 愛山の周りの空気が柔らかくなった。その矢先のコロナ自粛だった。

 「神田愛山の講談読み物帳」というブログで、愛山の日常を知った。

自粛中の意外な素顔

 囲碁を覚えようとしたが挫折、商売物の手ぬぐいで布マスクを作り、講談私小説「コロナバケーション」を書き下ろす――。

 何だ、普通だなとがっかりしたり、ホッとしたり。

 6月6日には、伯山プロデュースの「オンライン釈場」にウェブ出演。トリで六代目一龍斎貞丈直伝の「鼓ヶ滝」を端正に読み、伯山とのトークにも応じた。

 「ウチの師匠・松鯉が人間国宝になったのはいかかですか?」

 「(しばし沈黙の後)兄弟子の松鯉が国宝なら、私のことは『ひほう』と呼んでくれと。『悲報』じゃないぞ、『秘宝』だよ」(注2)

 ネットで見たら、リアルの高座も見たくなる。6月9日、東京・神保町らくごカフェの「講談カフェ昼席」は、入場制限がかかっている中とはいえ、自粛以前と変わらぬ賑わいだった。

 「自粛期間中、トイレットペーパーを買うのが癖になった。買うと安心するんです。10年半は使える量がある。私の寿命の方が早かったら、残りは(後輩の)昌味と阿久鯉に譲ることにした」

 我らが講談界の「秘宝」がちょっと明るくなったのは、何はともあれ、めでたいことである。

あまり意味のない注釈

(注1)かつて桂文治が「池袋演芸場には進藤さんという番頭がいて、地震の時、客より先に逃げた噺家に雷を落とした。震度5より、進藤さん(震度3)のほうが怖い」と何度も高座でいうので、興味を持った何人もの客が進藤さんを見に寄席に来たと、進藤さん御本人から聞いたことがある。
(注2)誰のネタだったか、「秘密兵器」というあだ名を持つ男がいるという。「あまりに恥ずかしいので、最後まで秘密にしておきたいから、秘密兵器。最終兵器というのもあって、これは最後の最後まで・・・」。「講談界の秘宝」とは何ら関係がないが、思い出したので。

長井好弘’s eye 一覧は こちら

プロフィル
長井 好弘( Nagai Yoshihiro
 1955年東京都生まれ。都民寄席実行委員長、浅草芸能大賞専門審査員、日本芸術文化振興会プログラムオフィサー(大衆芸能担当)。著書に『寄席おもしろ帖』『新宿末広亭のネタ帳』『使ってみたい落語のことば』『噺家と歩く「江戸・東京」』『僕らは寄席で「お言葉」を見つけた』、編著に『落語家魂! 爆笑派・柳家権太楼の了見』など。

無断転載・複製を禁じます
1283475 0 長井好弘's eye 2020/06/19 12:00:00 2020/06/18 17:14:05 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/06/20200617-OYT8I50007-T.jpg?type=thumbnail

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