アロハマンダラーズの哀愁

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 「よみらくご」総合アドバイザー、演芸評論家の長井好弘さんが、演芸愛いっぱいのコラムをお届けします。

落語・講談・浪曲・諸芸――長井好弘’s eye

 ぐずつく梅雨前線と居座るコロナ。カラリと暑い夏がなかなかやって来ないので、浅草まで迎えに行ったのは7月18日のことだ。

 東京・台東区上空に入道雲がスタンバイなんて情報はどこにもないが、我らが浅草演芸ホールでは、夏の三大名物番組(注1)のひとつ、噺家(はなしか)バンド「アロハマンダラーズ」のハワイアンショーが佳境に入っていた。

 元々は落語芸術協会会員のクラブ活動(?)だったのが2000年夏の新宿末広亭の大喜利(注2)として、寄席の舞台に上がってしまった。バンドの実力がどれほどだったかは不明だが、大幹部の故春風亭柳昇をゲストに、柳昇のつてを頼って呼んだフラダンスのダンサーも華を添えての舞台が評判となり、以後、寄席の夏興行として定着した。

緩さといかがわしさと懐かしさにあふれるアロハマンダラーズの舞台。中央の車椅子が小柳枝(浅草演芸ホールで)
緩さといかがわしさと懐かしさにあふれるアロハマンダラーズの舞台。中央の車椅子が小柳枝(浅草演芸ホールで)

 僕はあまり熱心な観客ではないが、初期には柳昇の楽しそうな顔を見に、その後は、三笑亭可楽(フルートとボーカル)、春風亭小柳枝(ウクレレとボーカル)という両ベテランの変わらぬ姿を確かめに、2018年に末広亭から浅草演芸ホールへと活躍の場を移した前後からは、脳梗塞(こうそく)で倒れた小柳枝の回復ぶりを見守らせてもらおうと、足を運んでいる。

 と、ここまで振り返って気がついた。僕はこの十数年、寄席の素敵なジイサマたちの健在ぶりを確認するために(失礼!)、アロハマンダラーズに通っていたのか!

 常に気になるジイサマが存在するハワイアンバンド。アロハマンダラーズは、寄席の名物にふさわしく、和やかな緩さと、いかがわしさと、懐かしさにあふれている。

○○温泉風の緩さと懐かしさ・・・

 7月中席・昼の部の8日目。今年のアロハマンダラーズは……うーん、いつもとあまり変わらなかった。

 バンドリーダーなのに隅っこで地味にギターを弾き、時々、MCの新山真理に「この人、私の同期。前座の頃に一軒家を建てたんですよ。茨城県の古河ですけど」といじられる春風亭柳橋。

 メンバー中、ただ一人の二ツ目だが、音楽面ではリーダー的存在なので、多少偉そうな顔の笑福亭希光(ベース担当)。

 楽屋の冷蔵庫にあった缶ビール(中身が入っている!)を使ってスチールギターを弾いてみせる春風亭伝枝。

 山の手お嬢様風の美声で「珊瑚礁(さんごしょう)彼方(かなた)」を聴かせる講談の神田紫。

 ハワイアンなのにコブシを回すボーカル&波音担当の桂夏丸。

 「夏丸さんは落語より歌のほうがうまい。でも、『ブルー・ハワイ』でコブシが回るの」「ハワイアンというより、伊香保温泉風」「自分で言うなー!」

 新山真理のMCも本職の漫談と変わらぬ調子なので、やっぱりこのバンド、ナントカ健康ランド風の雰囲気がプンプンする。

 そしていよいよ、2人のジイサマである。まずは可楽だが、あれれ、どこを探しても姿がみえない。

 「可楽師匠は1日おきの出演なんです。7月21日で84歳ですから、毎日だと、お疲れになるのでしょう」

 終演後、スタッフに教えてもらった。ああ、事前に可楽の出番を確認すべきだった……。しかし、可楽休演でも代役はいなかったような。いてもいなくても問題なし、ということではないよね。

 そしてもう一人、小柳枝はラスト近くに車椅子で登場した。十八番の「君といつまでも」を、思っていた以上の柔らかな声と表情で歌いきった。病後、落語が思うようにできず、下を向いていたのに出くわしたことがある。その時のことを思えば、光が見えてきた。師匠、リハビリ、頑張っているんだろうなあ。そう思ったら、涙が出てきた。くしゃくしゃの顔を隠してくれるマスクがありがたい(注3)。

 舞台上に医薬品らしきものをずらりと並べ、1曲歌うたび、こまめにマイクを消毒する夏丸。去年まであったドラムがないのは、舞台上の「密」を避ける苦肉の策か。こんな状況だからこそ、いつまでも変わらないアロハマンダラーズがうれしい。いやいや、曲目や演奏技術など、多少変わってもいいとは思うけれど。

(注1)あとの二つも有名なので、いまさら言うのも恥ずかしいが、浅草演芸ホール8月上席(1日~10日)昼の部の噺家バンド「にゅうおいらんず」と、同月中席(11日~20日)の「住吉踊り」。例年大入り満員で、最盛期には「入れますよ」と呼び込みのスタッフが請け合うので、「住吉踊り」をのぞいてみたら、立すいの余地もない超満員で、客席はよく見えない、座れない、動けない、もう外にも出られないと、何をすることもできず、進退窮まったことがある。確かに「(はい)れる」のではあるが。

(注2)テレビ番組「笑点」の影響だろうが、「大喜利=なぞかけ」は間違い。本来の大喜利は、寄席でトリの高座の後の「おまけ」として演じられる余興のこと。「かっぽれ」「(やっこ)さん」などの寄席の踊り、なぞかけなどの言葉遊びや、篠笛(しのぶえ)などの演奏、出演者による対談、鼎談(ていだん)など、内容はさまざまだ。

(注3)元気な頃の小柳枝御大に、ラーメンをごちそうになったことがある。お礼を言ったら、「お軽うございます」。粋な返しだなあ、いつか僕も使おうと思っていたのだが、僕が誰かにおごるケースはいつも「お軽い」ので、いくら気取って「お軽うございます」といっても、粋でも何でもなく、ただの「その通り」なのだった。軽くない時は何て言うのだろう?

長井好弘’s eye 一覧は こちら

プロフィル
長井 好弘( Nagai Yoshihiro
 1955年東京都生まれ。都民寄席実行委員長、浅草芸能大賞専門審査員、日本芸術文化振興会プログラムオフィサー(大衆芸能担当)。著書に『寄席おもしろ帖』『新宿末広亭のネタ帳』『使ってみたい落語のことば』『噺家と歩く「江戸・東京」』『僕らは寄席で「お言葉」を見つけた』、編著に『落語家魂! 爆笑派・柳家権太楼の了見』など。

無断転載・複製を禁じます
1359454 0 長井好弘's eye 2020/07/24 12:00:00 2020/07/24 12:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/07/20200721-OYT8I50005-T.jpg?type=thumbnail

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