「にゅうおいらんず」によろしく!

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 「よみらくご」総合アドバイザー、演芸評論家の長井好弘さんが、演芸愛いっぱいのコラムをお届けします。

落語・講談・浪曲・諸芸――長井好弘’s eye

2015年当時の「にゅうおいらんず」メンバー。右前から時計回りに春風亭昇太、小遊三、春風亭柳橋、ミーカチント、桂伸乃介(故人)、高橋徹、ベン片岡=三遊亭小遊三さん提供
2015年当時の「にゅうおいらんず」メンバー。右前から時計回りに春風亭昇太、小遊三、春風亭柳橋、ミーカチント、桂伸乃介(故人)、高橋徹、ベン片岡=三遊亭小遊三さん提供

 浅草演芸ホールの8月上席(1~10日)の呼び物は、今年20年目を迎えた噺家(はなしか)バンド「にゅうおいらんず」(注1)の大喜利ショーだ。

 バンドリーダー、三遊亭小遊三のトランペットが「セントルイスブルース」で大人の夜を浮かび上がらせ、春風亭昇太のトロンボーンが「タイガー・ラグ」でうなり、()える。毎年聴いて、曲目も構成もわかっているのに、今回は例年以上に初日が楽しみだった。

 新型コロナ騒動のせいで、寄席見物に来ても気分が晴れなかった。そんなモヤモヤを、噺家たちの楽しげなディキシーランドジャズで吹き飛ばしてもらいたかったからだ。

 「ここだけの話、演奏の前にしゃべる落語に、多少気が入らないのが問題なんです」

 昨年、「時代の証言者」(注2)の取材で小遊三本人が言っていたが、この日の一席「代り目」では、屋台のおでんを買いに行くカミさんに、亭主が「好きなタネ」を頼むくだりで「焼き豆腐」が出てこない。ははあ、これのことか。

 「コロナのおかげで、この4か月に4席しかやってないとはいえ、出てこないはずがない言葉が出てこないとは……」

 自由奔放な「にゅうおいらんず」にも新型コロナの影響が出ている。

 サックスのミーカチント(アーティスト)は、富山県在住で、浅草の出番の時だけ出てくる手はずだったが、近所で東京帰りの男性が陽性になるという騒ぎがあり、今回は休演せざるを得なくなったという。

 「小遊三師匠、考えてみたら、僕らが演奏してる金管楽器って、飛沫(ひまつ)を飛ばしてますよね。僕のトロンボーンが皆さんの方を向いたら、避けてください!」

 「昇太さん、大丈夫だよ、楽器は1曲ずつ消毒してるし、俺たちメンバーは皆、高座の後ろまで下がって演奏してるから」

 もう一人、キーボードの桂伸乃介の顔が見えない。2001年の第1回寄席公演から参加の創立メンバーだったが、今年1月に病没した。代わりに入ったのは、音曲の桂小すみ。三味線はもとより、尺八、篠笛、琴などあらゆる和楽器を弾きこなす才女だが、ピアノの腕も相当なもの。伸乃介の代名詞だった「片手演奏のピアノソロ」を再現して喝采を浴びた。

 練習不足と技術不足(?)でなかなかレパートリーが増えない「にゅうおいらんず」だが、今年は小遊三のソロ・ボーカルで「初恋によろしく」を聴かせてくれた。

 「今日の客層ならぴったりでしょう。さあ、皆さんもご一緒に!」

 ところが、客席は「???」という反応で、小遊三と昇太があわてて解説を始めた。

 「昭和41年頃の青春歌謡。小遊三師匠のお気に入りです」

 「当時の『御三家』の一人、西郷輝彦さんの歌だね。大ヒットというほどではなかったけど、いい歌ですよ」

 その頃は、僕はまだ小学生だった。西郷輝彦はかなりお兄さん世代なので、大ヒット曲でなければ知らないのは当然なのだが、「想い出しておくれ~」の歌い出しを聴いたら、後の歌詞が自然に出てきたので驚いた。大好きな女の子と一緒に小道を歩いただけ。そんな淡すぎる初恋の歌を、ませた小学生は頭のどこかに刻み込んでいたのである。

 元ミュージシャンで落語芸術協会事務員・ベン片岡の笑わないベース、初めは観客だったのに伸び悩みの演奏に耐えきれず自ら舞台に上がってしまったジャズドラマー、高橋徹の軽快なドラム、急きょミーカチントの代役に入った19歳の音大生の初々しいサックス、そして、すべてのメンバーに大人の気配りをするMC・春風亭柳橋のギター。

 各パートの生真面目なソロを要所要所にはさみながらの、ゆる~いライブ。去年の演奏に比べて格段に上達している……とは言い難いが、手拍子を打ち、メロディーを口ずさみながら50分。聴いているうちに、自然に肩の凝りがほぐれていく……。

 「焼き豆腐は出てこないし、トランペットの音も出ない。今日はリハーサルがピークだったな」と照れ笑いする小遊三。

 「来年もよろしく」とマスクの中から気の早い声をかけた。

(注1)にゅうおいらんず  小遊三が中野の新井薬師で質流れのトランペットを入手→ 音大の先生に基礎を教わる→ 楽屋で話すと同好の士が集まる→ 1997年、バンドを結成するが「にゅうおいらんず」の名を決めただけで1年が終わる→ 河口湖で本格合宿→ 落語芸術協会の余興で演奏→ 寄席でもやりたくて浅草演芸ホールに営業をかけたらOKが出る→ 2001年、寄席進出

(注2)時代の証言者  「肩書を言わなくてもわかる有名人の半生を聞き書きし、朝刊に30回ぐらいの連載記事を書く」という実に大雑把、いや、自由度の高い読売新聞の連載企画。僕は、桂歌丸、桂文珍、柳家権太楼、小遊三など計7シリーズ189本を書いた。小遊三は当初、「オレの人生には波乱万丈のエピソードがない。順風満帆。困ったなあと思うと誰かが助けてくれる。結果的にうまくいっちゃうんだよ」と連載を渋っていた。

長井好弘’s eye 一覧は こちら

プロフィル
長井 好弘( Nagai Yoshihiro
 1955年東京都生まれ。都民寄席実行委員長、浅草芸能大賞専門審査員、日本芸術文化振興会プログラムオフィサー(大衆芸能担当)。著書に『寄席おもしろ帖』『新宿末広亭のネタ帳』『使ってみたい落語のことば』『噺家と歩く「江戸・東京」』『僕らは寄席で「お言葉」を見つけた』、編著に『落語家魂! 爆笑派・柳家権太楼の了見』など。

無断転載・複製を禁じます
1404047 0 長井好弘's eye 2020/08/14 12:00:00 2020/08/14 12:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/08/20200811-OYT8I50047-T.jpg?type=thumbnail

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