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神田伯山と「よみらくご」

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 「よみらくご」総合アドバイザー、演芸評論家の長井好弘さんが、演芸愛いっぱいのコラムをお届けします。

落語・講談・浪曲・諸芸――長井好弘’s eye

 今回で19回目となる「よみらくご」では、2016年に柳家小三治、17年に立川志の輔、18年には春風亭昇太と、当代一流の演者を招いて「秋の独演会スペシャル」を催してきた。

 そして11月12日、「よみらくご」初の講談独演会として、神田伯山が満を持して登場する。

襲名披露興行で「中村仲蔵」を読む神田伯山(2020年2月11日、新宿・末廣亭で。写真・金子山)
襲名披露興行で「中村仲蔵」を読む神田伯山(2020年2月11日、新宿・末廣亭で。写真・金子山)

 伯山は、「講談の低迷」が続いていた2007年に三代目神田松鯉(2019年、人間国宝に認定)に入門し、「神田松之丞」を名乗った。12年に二ツ目昇進。そして今年2月、何人もの「名人」を世に出した講談の大名跡「神田伯山」(注1)の六代目を襲名し、晴れて真打ちに昇進した。

 新宿末広亭を幕開けに、都内の寄席を巡って催された披露興行は連日、早朝から行列ができるなどの大盛況。末広亭の高座および楽屋風景は、ユーチューブの「神田伯山ティービィー」でも配信され、驚異的な視聴数を記録した。伯山の真打ち昇進は、低迷の続く講談に気鋭の真打ちが誕生したことだけにとどまらず、落語を含めた演芸の世界全体に世間の目を向けさせた。

若い客の心もつかんだ「革命児」

 二ツ目時代、自らを鼓舞するためか、我が身を「講談界の革命児」と呼び、まくらで歯に衣着せぬ本音トークを繰り広げる。そんな高座ぶりが「生意気」「ビッグマウス」とも言われたが、外野の声を吹きとばすほど、「松之丞」の有言実行の活躍ぶりはすさまじかった。

 松之丞時代の高座はどんなものだったのか。

 寄席や落語会では、短い持ち時間に講談のエッセンスをギュッと詰め込んだ濃縮版のネタを、張り扇をパパンパンと乱打しつつ、声を張り上げ、汗だくでエネルギッシュに読みまくって、「長い」「わかりにくい」といった講談の負のイメージを払拭(ふっしょく)した。

 神田派のお家芸「寛永宮本武蔵伝」では、次々と武蔵の前に現れる有名無名の剣豪が奇想天外な剣技で暴れまわる。「谷風情け相撲」や「雷電初土俵」の力士同士の立ち合いは時に激しく、時にマンガチック。「芝居の喧嘩(けんか)」では、旗本(やっこ)と町奴の敵味方入り乱れる争いをひらすら描き、「双方いろいろな人物が登場しますが、ただ『いっぱい出てくる』とだけ覚えてくれれば」と笑わせた。

 伯山の高座に初めて触れた「講談を知らない」若い観客は、「講談って、こんなに面白いんだ」と、数百年の伝統を持つ講談を、まるで新しいエンターテインメントのように受け入れ、伯山ファンは寄席や講談会だけでは飽き足らず、独演会にまで押し寄せるようになった。

 一方、独演会では、講談師・伯山のもう一つの姿を見せつけた。師匠・松鯉譲りの連続講談、通しで演じれば十数席はあるという長編「畔倉重四郎」、「慶安太平記」、「天明白浪伝」などを、じっくり、たっぷりと聴かせ、新たなファンに講談の幅広さを伝えるとともに、自らの研鑽の場とした。現在も神田派を代表する連続物「徳川天一坊」の稽古が進んでいるはずだ。

講談界の未来のために

 新真打ちの船出の直後、新型コロナによる「公演自粛」の嵐が世の中に吹き荒れたが、そんな非常事態でも、いち早く「次の一手」を打ち出した。

 「神田伯山ティービィー」を拠点にしたネット配信では、自身が活躍するものだけでなく、他の講談師との無観客での競演を定期的に発信する「オンライン釈場」を始めた。そこに登場する講談師は、ベテラン、若手、協会の区別はなく、力のある真打ちと、注目の二ツ目が登場。伯山は個々の出演者とのインタビューも配信し、有望講談師の紹介につとめた。

 「いろいろ言われているけれど、伯山の最大の功績は、常に講談界全体のことを考えて活動していることだね」

 そう評価するのは、芸の上では伯山の伯父にあたる実力派のベテラン、神田愛山だ。「愛山先生の芸はすごいですよ。ちょっと暗いけれど」と伯山が高座で何度も冗談交じりで紹介したため、「愛山ってどんな人?」と観客の注目を集め出し、いつのまにか「独演会を開けば満員」というほどになった。愛山本人が一番驚いているという。

 伯山の夢は「いつか講談を中心とした寄席を作ること」だ。1990年に唯一の講談定席だった「本牧亭」を失い、その後、小ぶりになって再開した「黒門町本牧亭」も2011年に閉館となって、本拠地を失った講談師たちが待望久しい「我が家」を持つという見果てぬ夢――。

 独演会も寄席もオンラインもメディアも、伯山の活動すべてが、いつになるかはわからないけれど、将来の「夢の実現」を見据えている。大名跡「伯山」襲名と真打ち昇進で新たなスタートを切った伯山が、「よみらくご」という舞台での独演会を催す。講談の未来、演芸の世界の未来へとつながる第一歩になってほしいと願わずにはいられない。

(注1) 「伯山は天一坊で 土蔵(くら) を建て」とうたわれた初代。二代目も「徳川天一坊」を得意とし、初代を知らない観客は「蔵を建てたのは二代目?」と思った。三代目は人呼んで「次郎長伯山」。侠客物の傑作「清水次郎長伝」で一斉を風靡した。四代目は空席で、五代目は「大菩薩峠」が売り物の孤高の名手。だから「伯山に外れなし」と書いたのは・・・、この僕だった!

 11月12日に東京・よみうり大手町ホールで開催される「第19回よみらくご 伯山スペシャル」のチケットは読者会員限定で先行抽選販売を行います。10月3日午前10時~8日まで、読売新聞オンラインチケットストアで受け付けます。

長井好弘’s eye 一覧は こちら

プロフィル
長井 好弘( Nagai Yoshihiro
 1955年東京都生まれ。都民寄席実行委員長、浅草芸能大賞専門審査員、日本芸術文化振興会プログラムオフィサー(大衆芸能担当)。著書に『寄席おもしろ帖』『新宿末広亭のネタ帳』『使ってみたい落語のことば』『噺家と歩く「江戸・東京」』『僕らは寄席で「お言葉」を見つけた』、編著に『落語家魂! 爆笑派・柳家権太楼の了見』など。


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使い方
1513965 0 長井好弘's eye 2020/10/02 12:00:00 2020/10/02 12:00:00 2020/10/02 12:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/09/20200930-OYT8I50014-T.jpg?type=thumbnail

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