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「芸協の未来」を担う、かもしれない前座たち

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 「よみらくご」総合アドバイザー、演芸評論家の長井好弘さんが、演芸愛いっぱいのコラムをお届けします。

落語・講談・浪曲・諸芸――長井好弘’s eye

小痴楽(前列中央)を中心に出演者(前座)、スタッフ(二ツ目、真打ち)が全員集合
小痴楽(前列中央)を中心に出演者(前座)、スタッフ(二ツ目、真打ち)が全員集合

 僕の数少ない持ちネタに「前座ホワイトボード」というのがある。

 市民講座などで演芸解説を頼まれた時、ホワイトボードに固有名詞や地図を書きながら話すと、受講生(観客)に伝わりやすい。そんなことを繰り返すうち、「ホワイトボードなしでは話しにくい」カラダになってしまった。職・業・病?(注1)

 ところが、広いホールや演芸場では、そううまくはいかない。ボードによほど大きな字を書かないと、観客にはよく見えない。かといって、オーバー・ヘッド・プロジェクター(OHP)などの機材を使うほど大層なことはしゃべらない。そこで思いついたのが、前座さんの体をホワイトボード代わりに使うことだ。

 高座に前座さんを呼び出し、後ろを向かせ、「この帯のところが雷門通りで、背骨に沿って上がると、頭のあたりが浅草寺」「(右手を斜め上にあげてもらい)頭の部分が浅草寺とすれば、右手の伸びている先が新吉原です」などと、落語の舞台になりやすい浅草界隈(かいわい)の位置関係を説明する。まさに動く落語地図である。

 もちろん、人間をモノとして使うのは失礼なことだが、前座さんたちには案外好評で、僕が「前座ホワイトボード」をやるとわかると、「ぜひとも、あたしに」と志願して来るし、「今日はやらないよ」と言うと、がっかりする者もいる。後で渡すわずかな「コーヒー代」が目当てなのかもしれないが。

 「前座ホワイトボード」は、なぜか落語芸術協会(芸協)の興行で披露することが多く、自然と芸協の前座さんの顔と名前が一致するようになるのである。前座さんたち、いつも迷惑かけて、ごめんね。

コロナ禍の前座を救え! 兄貴分が立ち上がる

 前置きが長くなった。

 コロナ禍で寄席が休業し、仕事場を失った前座たちを応援するネット配信の会を、若い衆の兄貴分的存在である柳亭()()(らく)の音頭で開催する――。そんな話を小痴楽本人からの電話で知った。5月6日夜のことである。

 「急な思いつきだし、時間がないし、場所探しにも手間取って、告知がどんどん遅くなっちゃった。5月8日と9日に計4公演、『前座応援会』をやります。何でもいいから協力して!」

 聞けば、この日の夜、小痴楽は、知り合いという知り合いに電話しまくって、協力をお願いしているという。しかし、本番は2日後に迫っている。記事にするのは無理だが、オンラインでのニュースなら何とか、ということで、当読売新聞オンラインの敏腕デスクに紹介記事を書いてもらった。

 ささやかな協力とはいえ、責任上、本番の落語会も見なければ。ところが、8日も9日も変更不可能な予定を入れており、リアルタイムでの視聴は無理だった。気になって気になって気になって気になって、ようやく11日に、アーカイブで「第二部」を見ることができた。(注2)

 視聴料金は、松竹梅とその上の特上の松竹梅、あわせて6段階の料金設定になっている。僕は下から2番目の竹2000円にした。本当にささやかな応援である。

小痴楽(右)と昇也のオープニングトーク
小痴楽(右)と昇也のオープニングトーク

<前座応援会・第二部>
オープニングトーク(柳亭小痴楽、三遊亭()(しょう)、春風亭昇也)
 春風亭昇也  芸協前座のす
 桂壱福    寿限無
 三遊亭あら() たけのこ
仲入休憩(マイクオンのまま。楽屋トークが聞こえる)
 春風亭かけ橋 青菜
 柳亭小痴楽  花見の仇討
アフタートーク(出演者全員)

 「言い出しっぺ」の小痴楽、応援に駆けつけたのに高座着を持ってこない小笑、二ツ目ながら司会とトークは真打ち級の昇也。人気ユニット「成金」メンバー3人の和気あいあいトーク。それまで主催者の貫禄と男気を示しながら、ネット鑑賞の諸注意になると、急にトークがたどたどしくなる小痴楽が好ましい。

 仕事が入って前座1人欠席。本来なら小笑が穴埋めをするところだが、着物がないので、昇也が高座に上がる。小笑は完全に「観客」になって、盛大に拍手している。

 昇也は、あの八代目桂文楽の絶品「馬のす」を元ネタにした、「どこでもできる便利な新作」だ。「寄席、再開するんだって?」「うん、でも小痴楽が入ってないよ」「小痴楽に声かけなかったの? そりゃ大変だ」「何が大変なんだよ」「教えてほしければ、1杯飲ませろ」という展開で、間に前座たちの寸評をちりばめる。会場の空気を見ながら、チクリと毒を織り交ぜる呼吸の見事さ。こんな手練の技を見せられては、後に上がる前座たちがかわいそうだ。

 前座1番手の壱福は、くしゃくしゃの笑顔がかわいいが、落語はスリル満点である。(はなし)をちゃんと覚えていないのか、終始おどおどしているし、軽い絶句を繰り返し、見ていて気の毒になるほど汗をかいている。噺の()(ぐさ)で使うのと、汗ふき用とで、2本の手ぬぐいを使い分けるのが目まぐるしい。

 対照的に、次のあら馬は、二ツ目昇進直前とあって(現在、寄席で二ツ目披露の最中だ)、堂々と胸を張っている。「えー!」という第一声が野太く、その「圧」の大きさに、パソコン画面の前で、思わずのけぞってしまった。

 仲入りを挟んで後半の1番手、かけ橋の「青菜」は、前座とは思えぬ聴き応えだ。落語協会の二ツ目から芸協に移籍し、前座の一番下からやり直している苦労人。「落語協会の二ツ目みたいだ」という昇也の声は、意地悪なツッコミではなく、噺家らしいシャレを装っての、かけ橋へのエールなのだろう。

 トリは毎回、「成金」出身の真打ちが「指導出演(?)」をする。第二部に登場した小痴楽は、「花見の季節じゃないので、今回は『上野で花見』ではなく『隅田川の花火見物』でやります」。それじゃ「花火の仇討」か。(けん)()しながら花火の趣向を考えるオッチョコチョイの江戸っ子4人組が、皆、小痴楽に見えてくる。愉快、痛快である。

予想以上の奮闘に思わず拍手

 芸協独特のゆるくて和やかな雰囲気の中、予想以上の奮闘を見せる前座たち。ここに面白トークとトリの真打ちの熱演が加わって、立派に「お金の取れる番組」になっている。こういう会は、後を引く。アーカイブは16日までだが、ギリギリ15日の夜に、もう1公演見るだけの時間ができた。これが最後の視聴と思ったので、ラストの第四部をチョイスした。

桂伸び太の高座を、客席から見る他の前座たち。落語の世界では仲間の高座を客席から見ることはタブーであり、見る方、見られる方どちらも貴重な経験だ
桂伸び太の高座を、客席から見る他の前座たち。落語の世界では仲間の高座を客席から見ることはタブーであり、見る方、見られる方どちらも貴重な経験だ

<第四部>
オープニングトーク(小痴楽、春風亭昇々、昇也)
 三遊亭こと() 狸札
 三遊亭()よし 初天神
 立川幸太   家見舞
仲入休憩
 桂伸び太   やかん
 春風亭昇々  妄想カントリー
アフタートーク(全員)

 前座トップバッターのこと馬は、楽屋入りしてから3か月ほどとは思えない、落ち着いた高座だった。口調はなめらかで、立ち居振る舞いも女性らしく、きれいだ。「僕たちが望ましいと思う前座」と、アフタートークで小痴楽、昇也がうなずきあっていた。

 2番手も女性前座だ。美よしは、とにかく頑張った。普段の楽屋ではおとなしく、余計なことは言わないが、この日は本人が勝手に「無礼講」と決めたのか、思いの丈をぶつけている。

 「時間無制限ということで、今日は言いたいこと言います。私が前座になりたてで、誰に話しかけられてもドキドキしていた頃、昇也兄さんが寄ってきて『君、(漫画の)マキバオー(注3)に似てるね』って(場内の前座たち、爆笑)。こんなこと、初めて会った前座に言いますか。私はマキバオー知っていたけど、普通私の年代は知りませんよ。しかも『マキバオーの歌を()(ばやし)子に使えば』なんて勝手に話題を広めるし。この人だけは許せないと思いました」。画面の外から「ごめんねー!」と昇也の謝罪の声が聞こえてくる。(注4)

 「私が『初天神やりたいです』と言ったのに、(第一部で)南之助兄さん(桂南之助)が先に「初天神」やっちゃって。私、もう、緊張しまくりです。でも、少しでも私の爪痕を残さなきゃ。ふだんは金坊がアメ玉なめて終わるのに、南之助兄さんと同じじゃダメだから、電車の中で親子の(たこ)揚げの場面をさらってきました。今日は凧がネタおろしです(笑)」

 普通の寄席の観客では、内輪ネタ過ぎてわからないものもあるが、この日の客席は、出演者の前座たち、応援の若手真打ち、二ツ目とプロばかり。美よしの必死トークにやんやの喝采だ。美よしはしっかり「爪痕」を残した。

 仲入前の幸太は7月に二ツ目昇進が決まっている。「家見舞」は寄席の披露目で演じるネタらしい。さすがに新米前座とはひと味もふた味も違うが、時々師匠の談幸そっくりの口調が飛び出すのがほほえましい。

 後半最初に出てきた伸び太は、両親ともにミャンマー人だが、本人は日本育ちで、あちらの言葉はあまり得意ではないという。野太い声でしっかりしゃべる言葉は、ちゃんと東京の噺家のものになっている。何より、ラストの川中島の場面の講談口調に勢いと切れ味がある。よほど稽古をしたのだろう。アフタートークで「(講談の)神田松麻呂が真剣に見ていたよ」と小痴楽に冷やかされていた。面白いのは、張り扇をパパンとたたく仕草だ。ふつうは釈台代わりに己の膝を叩くのだが、伸び太は膝を叩かず、扇子の要の部分で床をトントンとやる。「扇子で膝を叩くと痛いんですよ」と、後でばらしていた。

 トリの昇々は、青春モノの新作を元気いっぱいに演じた。でも、アフタートークでは、「別室で着替えた時、前座が誰も手伝いに来ない。来たら『あ、今日はいいよ』って、そういうやりとりをしたかったのに(笑)」と新米真打ちらしい(?)不満を漏らしていた。

 最後は、一連の公演の配信部分を一手に引き受けた春風亭吉好(よしこう)や、手伝いに来ていた笑福亭()(こう)、仕事の関係で出演できなかった前座の桂伸ぴんなども呼び込まれ、画面いっぱい、噺家だらけのにぎやかなエンディングになった。僕も誰もいないリビングで思わず手を叩いた。

きょうばかりはアンタが主役 若手の本音も垣間見えた2日間

 2公演をたっぷり見て、十分に楽しませてもらった前座応援会。だが、これで終わりかと思うと、何とも惜しい。もっと見たい、でも、時間が取れない。しかし、今日でアーカイブが終わってしまう。ううう、どうしよう。煩悶の末、16日夜、第一部へ滑り込みセーフである。

第四部のアフタートーク。コロナ禍で寄席と言う仕事場を失った前座(前列の4人)が、この会では主役となった。
第四部のアフタートーク。コロナ禍で寄席と言う仕事場を失った前座(前列の4人)が、この会では主役となった。

<第一部>
オープニングトーク(小痴楽、瀧川鯉八)
 桂南海(なんしー)   子ほめ
 神田紅希  真田幸村
 桂南之助  初天神
仲入休憩
 神田松麻呂 谷風情け相撲
 瀧川鯉八(こいはち)  俺ほめ
アフタートーク(全員)

 落語の南海、講談の紅希と女流が2人続いた。どちらも入門1年以内とは思えない、はつらつとした高座である。声もよく出ている。

 続く南之助のネタは、第四部で美よしが「兄さんに先を越された」と訴えた「初天神」である。前座生活ももう後半、手慣れた一席だったが、よく聞くと、けっこう個性的なのだ。「素人が彫った仏像」と言われる穏やかな顔なのに、金坊が「何か買って」とねだる時には尋常ならざる叫び声を発し、その金坊が父親に頭を叩かれ、なめていたアメを「ブッ」と吐き出す仕草はリアルすぎて気持ちが悪いほど。こんな「初天神」を、目の前で先にやられてしまったら、美よしが焦るのも無理はない。その切羽詰まった焦りが、彼女のあの面白必死トークを引き出したのだろう。

 自粛生活で少し太ったので、ブロッコリーダイエットをしているという講談の松麻呂は、現時点の体形を生かしてか、「谷風情け相撲」をどっしりと。メリハリのある語り口、力感みなぎる演出に、「神田伯山の前座時代そっくり」の声が飛ぶ。

 トリの鯉八は笑いをたっぷり詰め込んだ「俺ほめ」だ。合間に「前座の修業が芸につながるとは(真打ちになった)今も思っていない」と挑発的な言葉を発し、前座だらけの会場に波紋を起こす。うっかり「そうだよね」と頷いた前座もいるに違いない。

 話題を読んだ「芸協前座応援会」、全4公演のうち3公演を鑑賞。1回2000円で計8000円をつぎ込んだ。計算が合わないのは、最後の第一部を見る時、あせって操作を間違え、一度見ている第二部に、もう一度お金を払ってしまったからだ。前座応援のためだから、惜しいとは思わないが、こういうケアレスミスは、やっぱり悔しい。

 前座はいつも寄席の楽屋で働いているが、演芸の世界という独特の縦社会の中で、言いたいこと、考えていることを自由にしゃべる機会はほとんどない。「前座応援会」では、いつもより長い持ち時間や、アフタートークでのやり取りから、彼ら、彼女たちの本音がちらりと見えた気がする。各々の人となりが少しでも分かれば、応援のしがいも増すというものだ。

 全体を見終わっての感想は、第四部のアフタートークでの昇也のコメントに尽きるのではないか。

 「芸協の未来は明るい。でも芸協の現在は……(笑)」

 頑張れ、若手たち。

(注1)紙切りの達人、林家正楽が何十年か前から使っているくすぐりを一部借用させてもらった。長年一緒に仕事をしている仲なので、許してくれるだろう。オリジナルは「最近では新聞を読む時も、(紙切り同様)体を動かさないと読めません。職・業・病です」。

(注2)なぜ第一部から見ないのか。それはね、操作を間違えて「第二部」のボタンを押してしまったからである。

(注3)漫画「みどりのマキバオー」(1994~98年、週刊少年ジャンプ連載)のこと。小さな競走馬「ミドリマキバオー」が活躍する正統派競馬漫画、だよね。

(注4)アフタートークで、昇也が「美人のマキバオーです」と訂正したら、「それ、フォローになってないですから」。「こういう美よし、初めて見た」「私も初めて言いました」。もちろん、笑顔のやり取りである。

長井好弘’s eye 一覧は こちら

プロフィル
長井 好弘( Nagai Yoshihiro
 1955年東京都生まれ。都民寄席実行委員長、浅草芸能大賞専門審査員、日本芸術文化振興会プログラムオフィサー(大衆芸能担当)。著書に『寄席おもしろ帖』『新宿末広亭のネタ帳』『使ってみたい落語のことば』『噺家と歩く「江戸・東京」』『僕らは寄席で「お言葉」を見つけた』、編著に『落語家魂! 爆笑派・柳家権太楼の了見』など。
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2098704 0 長井好弘's eye 2021/06/04 12:00:00 2021/06/04 12:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210602-OYT8I50001-T.jpg?type=thumbnail

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