読売新聞オンライン

メニュー

ニュース

動画

写真

スポーツ

コラム・連載・解説

発言小町

漫画

教育・受験・就活

調査研究

紙面ビューアー

その他

サービス

読売新聞のメディア

購読のお申し込み

読売新聞オンラインについて

公式SNSアカウント

「わかりやすい言葉がめちゃくちゃ感動するセリフになる」…「ハイキュー!!」作者が語る制作秘話

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 バレーボールにかける高校生の青春を描いた人気マンガ『ハイキュー!!』(全45巻、集英社)が完結し、作者の古舘春一さんが、初めて対面インタビューに応じた。読者の心を揺さぶる熱戦、個性派ぞろいの「妖怪世代」のキャラクターは、どのように生まれたのか。制作秘話を語ってくれた。(文化部 川床弥生)

何も決まらぬまま試合開始、序盤はキャラ固まらず

――連載を終えて、今の心境を。

相棒でライバルの日向(左)と影山(c)古舘春一/集英社
相棒でライバルの日向(左)と影山(c)古舘春一/集英社

 無事に終わってほっとしています。何とかバランス良く続けてきたので、終わりが近づくに連れて、失敗したら全部台無しになるという恐怖がありました。最後、ちゃんと着地できてよかったというのが一番です。

<物語の主人公は162センチと小柄ながら驚異的な身体能力を持つ日向翔陽(ひなたしょうよう)。宮城県立烏野高校バレー部で、ライバルで相棒となる天才セッター・影山飛雄(かげやまとびお)と出会う>

――なぜ、バレーボールを描こうと思ったのでしょうか。

 自分も中高時代はバレーボール部員で、日向と同じポジションのミドルブロッカーでした。強いチームではなく、地区予選は突破しても、県大会の最初で負けるという結果でした。もやもやしたまま不完全燃焼で終わったので、それを昇華したいという思いがありました。連載の原型となった読切では、影山の方が主人公で、独りよがりというか、周囲にもどかしさを感じる、自分が学生の頃に感じていたことが強く出ていました。一方で、連載では同じくらいの熱量を持っている仲間である日向を、影山の相棒にして、ミドルブロッカーとセッター、息を合わせてボールをつなぐ速攻プレーを描きたいと思いました。身長が低いキャラを主人公にしたのは、少年マンガっぽくしたかったからです。

――連載中、一番苦労したこととは。

 何も決まらないまま試合を始めるので、組み立てが毎回大変でした。試合序盤はキャラも固まっていません。ただ、試合の結末にはこだわり、毎試合、渾身(こんしん)の終わり方になったと思います。各校の横断幕が試合後半に出てきますが、その登場回が、試合のコンセプトが決まった回です。音駒高校は、攻撃型の主人公たちのライバルだから守備がいいと思い、横断幕は最初から「(つな)げ」に決まっていました。自分なりに良い試合が描けた稲荷崎高校は、「思い出なんかいらん」と瞬間的に決めました。井闥山学院高校は試合場面がほとんどなく、初めは「mement mori」にしようと思ったのですが、「努力」に落ち着きました。

――一番印象に残っているエピソードは。

青葉城西高校(右)との対戦では、天才とは何かを描いた(c)古舘春一/集英社
青葉城西高校(右)との対戦では、天才とは何かを描いた(c)古舘春一/集英社

 試合ごとに1回は会心の回があるんですけど、春の高校バレー全国大会宮城県予選で、対戦する青葉城西高校のセッター・及川の才能とセンスについてを描いた回と、稲荷崎高校の主将・北の天才について話をする回です。及川の回は、よくありがちな天才と秀才について描こうと思い、話を始めたのですが、だんだん「天才って生まれた時からそうじゃない。及川は言い訳している。『天才に勝てない』というのは高校生でわかることじゃない。今、もし自分より技術的に上がいても、これから努力の仕方によって超えるかもしれない」と思い直し、「才能は開花させるもの センスは磨くもの!!!」という及川の言葉が生まれました。「生まれながらの天才」というテンプレートってよく考えたら変だなと、軌道修正しました。

――ライバルチームのキャラクターも個性があり、とても人気があります。日向や影山以外のキャラクターはどうやって生まれたのですか。

烏野高校バレー部(手前中央の黒いユニホーム)と全国のライバルたち(c)古舘春一/集英社
烏野高校バレー部(手前中央の黒いユニホーム)と全国のライバルたち(c)古舘春一/集英社

 登場シーンでは、見た目とポジションと名前だけで特徴は何も決まっていません。あとは試合をしながらだんだん作っていく感じです。烏野高校では、エースで3年の東峰(あずまね)を最初は強くて怖い感じにしようと思ったんですけど、結局、心が弱いキャラになりました。ほかのチームでは、音駒高校のセッター・孤爪(こづめ)のビジュアルは最初の影山の原型でした。試合前にやり取りがある人は何となく決まってるんですけど、ほかは最後まで真っ白です。こちらの想定を超えて成長したキャラは、白鳥沢学園高校の天童と、稲荷崎高校の北、梟谷学園高校の木兎(ぼくと)です。天童が将来ショコラティエになり、「情熱大陸」に出る流れは、絶対最終回でやろうと思っていました。稲荷崎高校の双子、宮侑(みやあつむ)と宮(おさむ)も、最初は双子という設定ではありませんでした。双子の選手はどこかで出したいと思っていたので、治を考えました。

マンガ的発想から「低い身長」、説得力持たせようと日向に試練

――試合をしながら展開を決めるとのことですが、大事な一戦で、日向が熱で退場する展開は衝撃でした。

 退場するというのは、初めから決めていました。日向がいくら身体能力があっても、あの身長で、トップに食いこんでいく選手になるためには、どうすればいいのかというのをずっと考えていました。生活から何から、食べるもの、睡眠、そういうところからやらないといけない。体を極めていかないといけないというのをずっと考えていました。それを日向に思い知らせるための回です。第1話でも影山に「体調管理もできてない奴が」って怒られているんですけど、勢いだけでは上にいけないぞというための退場です。身長が低いという設定はマンガ的な発想から始めたのですが、実際そうだったらと考えると、具体的な改善点、どこを強くしてという説明もなく、「ただ時間がたって、この間に頑張ったからトップまできました」では、説得力がない。低い身長でも世界で戦えるようになるためには、読んでいる人が納得しないといけないとの思いがありました。キャラには感情移入しません。日向が卒業後、ビーチバレー修業に出るのは途中から決めていました。ラストは日向と影山、お互いがラスボスのまま終わるのがいいと思っていました。

――天才の話もそうですが、キャラが語る言葉に共感したり、励まされたりする読者も多いと思います。どのように思いつくのですか。

古舘さんの会心の構図その〈1〉。見開きの勢いとスマホの縦読みを両立。縦から読んでも左に読んでもつながる(c)古舘春一/集英社
古舘さんの会心の構図その〈1〉。見開きの勢いとスマホの縦読みを両立。縦から読んでも左に読んでもつながる(c)古舘春一/集英社

 話を考えるときに、最初は文章で全部書き出します。細かいセリフや試合のローテーションを決めて、絵にするときにはほとんど修正しません。できるだけ小難しい、かっこつけた言い方はしないようにしています。それは、「ONE PIECE」の影響を受けています。言葉自体は普段よく使う言葉でも、展開や誰が発言するかによって、わかりやすい言葉がめちゃくちゃ感動するセリフになることに衝撃を受けました。シンプルな言葉がかっこいいというのを意識しています。

――一番気に入った言葉はありますか。

 日向が熱を出して退場したときに、コーチの烏養(うかい)の「限界を超えるんじゃなく、限界値を上げてこう」というセリフがあるんですけど、これは我ながらいいこといった!と思いました。学生の頃は、「限界を超えて行くぞ」という心境で取り組んでいると思うのでなかなかスっと入ってこないのですが、痛い目を見た後に入ってくるセリフだと思うんです。

――構図の工夫や、迫力のある試合を描くこだわりとは。

古舘さんの会心の構図その〈2〉 サーブとレシーブが見開きでも縦読みでも伝わる革新的な試み(c)古舘春一/集英社
古舘さんの会心の構図その〈2〉 サーブとレシーブが見開きでも縦読みでも伝わる革新的な試み(c)古舘春一/集英社

 体育館でネットを挟むという制約があるので、退屈な画面にならないようにしました。特にVリーグ編は高校編より奇抜な構図を意識しています。キャラは同じですが、プロの試合を見せないといけないと思ったからです。終盤はスマートフォンで見る人のことも意識しています。紙だと見開きで伝わるんですけど、スマホの縦画面で見たとき、わからないんですよね。横にしてもらいたい絵もありますが、1ページ読んでも伝わるように、縦で読んでも見開きで読んでも伝わるように描いています。作画は、すべてアナログです。

勝敗決してもそこで終わりじゃない、明日はわからない

――そもそも、なぜマンガ家になろうと思ったのでしょうか。

 絵を描くことは好きだったんですけど、きっかけは今考えてもよくわからないんです。ただ、学生の頃にはすでにマンガ家になろうと思っていて、仙台市にあるデザイン系の専門学校に通いました。その後、市内のデザイン会社に就職して、働きながらマンガを描いていました。仙台を舞台にしたのも、仙台には8年ぐらい住んでいて好きな土地だったからです。登場人物の名前にも、宮城や東北の地名などを使っています。烏野高校の場所は作中で明示していませんが、あまり街中ではない仙台の隣の名取市あたりをイメージしています。高校前の坂や店が出てくる風景は地元の岩手を参考にしました。

――Vリーグや春高バレーなどとコラボし、「ハイキュー!!」を通して、バレーボールに興味を持った人が増えました。

 バレーボールを始めたとか、実際の試合がわかるようになったといわれると、一番うれしいです。自分も調べれば調べるほど、バレーボールの奥深さを知りました。バレーではよく「つなぐ」というキーワードが使われるんですけど、全部のプレーが影響するんです。たとえ強い選手がいても、その前段階のプレーを崩したら倒すことだってできる。悪いプレーも「つながる」というシビアさが面白いです。

――今年はコロナ禍で大会が中止になり、悔しい思いをした学生が多いです。

日向(右)と影山。互いがラスボスの関係は続く(c)古舘春一/集英社
日向(右)と影山。互いがラスボスの関係は続く(c)古舘春一/集英社

 インターハイが中止になった時、全国の高校からユニホームを集めたプロジェクトのお礼メッセージにも描きましたが、今回は披露する場がなくなったけれど、身につけた筋肉は簡単には消えない。悔しさはどうしようもないけれど、筋肉はついていると伝えたいです。作中では2021年に東京五輪が行われましたが、コロナを乗り越えたことにさりげなく触れたくて「困難を乗り越えて 我らはここに立つ」という一言を横断幕に入れました。

――作品を通して一番伝えたかったこととは。

 勝負事には絶対勝敗が付くんですけど、絶対そこで終わりということはない。そこで立ち止まらないでほしいということですね。勝っている人が明日負けているかもしれないし、今日負けた人が明日勝つかもしれない。明日はわからないということです。あとは、ご飯が大事です!

古舘 春一

 ふるだて・はるいち 岩手県出身。2009年に「アソビバ。」でデビュー。10年に「詭弁学派、四ツ谷先輩の怪談。」で初連載。20年12月24日に大判画集「ハイキュー!! Complete Illustration Book 終わりと始まり」を発売。

無断転載・複製を禁じます
1724968 0 サブカル 2020/12/24 05:00:00 2020/12/24 23:03:21 見開きの勢いとスマホの縦読みを両立。縦から読んでも左に読んでもつながるコマ割り(c)古舘春一/集英社 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/12/20201223-OYT1I50032-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)