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「約ネバ」原作の白井さんと作画の出水さんが語る、独創的な世界観の誕生秘話 <2>

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 『約束のネバーランド』の作者コンビ、原作の白井(しらい)カイウさん、作画の出水(でみず)ぽすかさんへのロングインタビューの2回目です。出水さんが大好きだった絵本、白井さんが愛読する意外な作家とは? さらに深く、マニアックに、『約ネバ』世界の原点に迫ります。(聞き手・石田汗太)

大好きだった赤羽末吉の絵本

 ――出水さんは、『約束のネバーランド』を描くにあたって、絵本的な世界も意識したそうですね。

 出水 意識したというか、白井先生の世界観を表現するために、自分の過去から何を引き出せるかを考えました。私が育った家にマンガはあまりなくて、親がよく絵本を買ってくれた。子どもの頃に読んだ絵本の世界観を混ぜたら、いい感じになるんじゃないかと思ったんです。原点回帰というつもりもありました。

 ――イラスト画集『約束のネバーランド ART BOOK WORLD』収録のインタビューで、影響を受けた絵本として、『おおきな おおきな おいも』(赤羽末吉、福音館書店)や『たんじょうびの ごちそう』(木村裕一作、黒井健絵、偕成社)などを挙げています。

 出水 大好きだった絵本です。『おおきな――』は、描きたい物や、やってみたい事が詰まっている本でした。巨大な芋をみんなで切って、思い思いに料理したり、工作したり、小さく描かれた子どもたちが、みんなそれぞれ別の動きで楽しんでいる。想像の余地があるところが良くて、ミニチュアを見ているような世界といいますか、そういうのは『約ネバ』でいえば「モブキャラを動かす」ことの原点になったと思います。

思い出のお菓子カンを開けると……(第110話、扉絵)(画像はいずれも ©白井カイウ・出水ぽすか/集英社)
思い出のお菓子カンを開けると……(第110話、扉絵)(画像はいずれも ©白井カイウ・出水ぽすか/集英社)

 ――ミニチュアと言えば、『約ネバ』でも、お菓子のカンの中で、みんながくつろいでいる扉絵(第110話)がありましたね。

 出水 そうですね。お菓子のカンといえば、小学生の時にも消しゴムや、つまようじを集めて、まさにカンの中にミニチュアの部屋を作っていました。小さくて全体を見渡せるものが好きなのかもしれません。今でも模型は作りますし、博物館などでも、ミニチュア模型に見入ってしまいます。

作中の「食」は自分でも実践

 ――『約ネバ』では、子どもたちみんなが食卓を囲んで食事するシーンが楽しげですよね。原点がこの絵本ということでしょうか。

みんなで食卓を囲むシーンは『約ネバ』の名物(第1話から)
みんなで食卓を囲むシーンは『約ネバ』の名物(第1話から)

 出水 はい。それに、この本に限らず、食事に関しては、やっぱり自分が「食」が好きな点が大きいです。ふだんから、肉をいぶしてベーコンにしたり、果物を漬けてみたり、パンを焼いてみたり、作中の子どもたちが作りそうなものは趣味で実践します。ですので、食に関する本は、おいしそうな絵本から、料理本から、食レポマンガまで大体好きです。

 白井 出水先生の作品に「PIZZA工場」というのがあるでしょう。みんなでピザを作っている工場が、そのまま大きなピザの上にあるという。あの絵も魅力的で、私大好きです。

 出水 ありがとうございます。最近のものでは、ジーン・マルゾーロの『ミッケ!』シリーズとか、ヨシタケシンスケさんの絵本とか、もし子どものころに読んだら、大好きになっただろうなと思います。

ルーカスと『坂の上の雲』との意外な関係

 ――白井さんのストーリー運びは、とても先々まで計算されていて理知的です。ミステリー小説がお好きなんでしょうか。

 白井 映画は見ますが、ミステリー小説はそんなに読んでいません。時代小説の方が読みますね。司馬遼太郎さんとか。

 ――ちょっと意外です。司馬作品では何がお好きですか。

 白井 『燃えよ剣』ですかね。あと『坂の上の雲』は、「秘密の猟場(かりにわ)編」を描くときに読み直し、NHKのテレビドラマ版(2009~11年)も見直しました。レジスタンスの子どもたちの参謀となるルーカスが、本木雅弘さん演じる秋山真之に、ちょっと重なるところがあったからです。

 司馬さんは読みやすいし、やはり歴史の切り口が面白いんです。堀田善衛さん、宮崎駿さんと鼎談(ていだん)した『時代の風音』(UPU)という本を中学生の時に読んだんですが、司馬さんは、ロシア人がモヤシを食べることを知っていれば、日露戦争でロシア軍は簡単に降伏しなかったのではないかと言っています。食糧庫の大豆からモヤシが生えたから、もう食べられないと観念した。しかし、日本人はモヤシを食べられることを知っていた。そんなの教科書に書いてない。その論の真偽や妥当性はまた別として、こんな見方もあるのかと、司馬さんにはかなりハマりました。

 でも、影響を受けたものといえば、それ以上に、ラーメンズ(小林賢太郎、片桐仁)さんのコントですね。伏線の張り方やミステリーのつくり方等、あれはかなり研究しました。

見方が変われば世界も変わる

エマとレイのポジティブさがわかる名場面(第47話から)
エマとレイのポジティブさがわかる名場面(第47話から)

 ――エマたちの行動には、常に予想を裏切る意外性があります。第47話で、エマとレイが、ソンジュから二つの世界を分けた「約束」のことを聞き、ここが人間の世界でなく、鬼の世界だったことを知る。普通なら絶望するところなのに、エマとレイは飛び上がって喜ぶ。「最悪だけど! その先があった!!」「思ってたよりずっと良かった!」

 白井 それこそ、さっきのモヤシの話じゃないですけど、「見方を変えれば世界が変わる」ってことですね。普通は、つらいことはつらいって言っちゃうけど、見方を変えて「よかった」と言えるのがあの子たち。物語の演出としてやっているのではなく、あの子たちならこれが自然だなって思っています。

 ――白井さんの書くセリフは、韻を踏んだりして、リズムが心地よいですね。

 白井 大学で歌舞伎を専攻していたので、その影響もあるかな……。河竹黙阿弥の五七五調とか。あと、やはりセリフのリズムと言えば、尾田栄一郎先生の『ONE PIECE』ですよ。『ONE PIECE』で育っているので、自然にそういう感覚になるんだと思います。

レイは本当に死んだと思った

 ――出水さんは、連載開始当初は、話をあまり先まで教えてもらってなかったとか。一番びっくりしたところはどこですか。

出水さんは、この後の展開を知らなかった(第32話から)
出水さんは、この後の展開を知らなかった(第32話から)

 出水 いろんな場所で言っていますが、第32話で、レイが自分に火を付けようとしたところです。エマが「レーイ!!!」と叫んだ時の顔は、私、レイが死んだと思って描いてますから。結果的に、それでよかったと思っていますが。

 白井 初期のころは特に、出水先生にはあえて先を伝えない方が、より一層に読者をだませる絵を入れていただけるだろうなと……。第12話で判明する「内通者」の正体も教えていませんでしたし。

 出水 あれも、びっくりしたなあ。

 白井 後半は、お互いに機微もわかってきたので、割と伝えていたんですが。でも、週刊誌連載って、アンケートの結果で展開を変えていくこともあるので、100%予定通りにはいかない。何が起こるかわからないっていうのは本当にあるんです。

 ――当初は、「GF(グレイス=フィールド)脱獄編」で、レイを本当に死なせるつもりだったとか。

 白井 はい。なぜかというと、エマを成長させるためには、一人で次のステージに進んだ方が手っ取り早いからです。その方が、新しい場所で、新しい人たちと関わりやすい。レイは「心の中の師匠」になってエマを導く。そのつもりだったんですが……。

 出水 レイ、あの時、びっくりするくらい人気出てましたからね。

 白井 担当の杉田さんも、一度OKしていたのに、「レイ、本当に殺していいの?」とか言い始めるし。あれは、最初から殺させるつもりはなかったですね。

 ――いや、死なないでよかったと思います。レイがいなかったら、全然違う作品になっていたかもしれない。

 白井 そうかもしれません。でも、レイというキャラクターは「GF脱獄編」でやりきった感もあって、そういう子がエマのサポートに回って、どんなふうに気持ちや生き方を変えていくんだろうって興味はありました。ずっと後の第174話で、イザベラに「悔いがあるなら人間の世界(むこう)で晴らせよ/だから行こう 大人達(あんたたち)も」と言えるのはレイだけなんで、彼が生き残ってくれたのはよかったなと、最後は思いましたね。

レイにとっての「特別な2人」

 ――出水さんは、レイとノーマンとではどっちが描きやすかったですか。

 出水 レイは、髪形や目つきなど、私の中に元々あったキャラクターに割と近かったので、描きやすかったです。ノーマンは難しかった。物語の中で、最も劇的に変化するのはノーマンですが、その成長と共に悩みながら、自分の描き方まで成長していった感じです。

レイにとって、エマとノーマンは常にセット(第119話から)
レイにとって、エマとノーマンは常にセット(第119話から)

 ――第119話でノーマンと再会した時の、レイの行動が印象的でした。エマはストレートにノーマンに抱きつく。しかし、レイは、いきなりノーマンの頬を張って、その後、エマとノーマンの両方を抱きしめる……。

 白井 レイにとって、エマとノーマンはセットだから。GFで6年間も地獄の脱獄ルートを探し続けたのは、二人をどうしても生かしたかったからです。レイにとってあの二人は「特別」だということなんです。

(続く)


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1730583 0 サブカル 2020/12/29 09:00:00 2020/12/31 09:36:50 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/12/20201225-OYT1I50055-T.jpg?type=thumbnail

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