[名品を読む]愛らしさと深み漂う…特別展 御即位30年記念「両陛下と文化交流―日本美を伝える―」 東京・上野の東京国立博物館、展示替え

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 東京国立博物館(東京・上野)で開催中の特別展 御即位30年記念「両陛下と文化交流―日本美を伝える―」は、2日から展示替えし、新たな名品が出展されている。大きな見どころとして、酒井抱一ほういつ「花鳥十二ヶ月図」の全12幅が一堂に披露されている。

 

酒井抱一「花鳥十二ヶ月図」(全12幅) 武蔵野美術大教授  玉蟲敏子(たまむしさとこ) さん

会場に展示された「花鳥十二ヶ月図」
会場に展示された「花鳥十二ヶ月図」
酒井抱一「花鳥十二ヶ月図」より 「十月 柿に小禽図」 江戸時代・文政6年(1823年) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 ※全12幅展示
酒井抱一「花鳥十二ヶ月図」より 「十月 柿に小禽図」 江戸時代・文政6年(1823年) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 ※全12幅展示
酒井抱一「花鳥十二ヶ月図」より 「六月 立葵紫陽花に蜻蛉図」 江戸時代・文政6年(1823年) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 ※全12幅展示
酒井抱一「花鳥十二ヶ月図」より 「六月 立葵紫陽花に蜻蛉図」 江戸時代・文政6年(1823年) 宮内庁三の丸尚蔵館蔵 ※全12幅展示

 ラブリーだけど深みがある。それが酒井抱一(1761~1828年)の作品の魅力だ。植物と鳥などを組み合わせて月次つきなみ絵を描いた、60歳代の「花鳥十二ヶ月図」には、幾つかのバージョンがある。このうち宮内庁三の丸尚蔵館の作品は、堂々とした風格を備える。代表作「夏秋草図屏風びょうぶ」(1821年頃)から少し後の制作で、円熟期を迎えた抱一派の標準スタイルの出発点と言えるだろう。

 抱一は、日本の美の流れの中に新たな光琳風の美を見つけ、それを糧に自分の絵を伸ばしていった。文学の美意識が先行し、絵の技術力がそれを追いかけた。弟子も増えて生産体制も整ったことで、文政(1818年)に入ると、良い作品が連発される。

 この花鳥図は構想がよく練られている。剣先のように鋭い枝ぶりや柔らかな植物のしぐさなど細やかな線は美しく、魅力ある余白に野暮やぼに突き出しはしない。濃淡を意識した水墨や緑青のたらしこみも巧みだ。

 抱一の折衷様式と指摘されるものが、見て取れる。狩野派をしっかり勉強した水墨の線。フラットに着彩しながら要所に色を利かせて塗るのは、光琳風だ。6月2日が命日の尾形光琳へのオマージュとして、夏の図柄には、光琳のイメージと結びつく燕子花かきつばた立葵たちあおい紫陽花あじさいを描く。円山応挙が創始し、京都から到来したニューモードの影響は、対角線構図や自然主義的な空間性などに現れる。十月の柿は、画面の中で色変わりして時間の変化が感じられる。

 抱一は、姫路藩主酒井家の次男として江戸の別邸に生まれ、37歳で出家し、下谷根岸の雨華庵うげあんで死去した。階級を縦断した人と言えよう。彼は知識人のエリートで俳諧をよくしたが、日本の古典文学や謡曲、和歌などにも通暁し、老子の言葉を引用するなど漢籍の素養もあった。研究者らが彼の学識や世界観にまだ追い付いていない感じだ。

 抱一が持つ江戸の生活感は、この花鳥図にもよく現れている。例えば、三月の桜。実はかつて、藤原定家の月次花鳥和歌に基づく伝統的な図様を根拠に、二月の花として2番目に並べられていた。研究者が平成に入って正した。実際、彼の自筆句稿「軽挙館句藻けいきょかんくそう」を見ると、三月になると大変な騒ぎ。二分咲きだ、盛りだ、名残だと、あっちの桜、こっちの桜に走り回っている。

 抱一は大江戸を遊ぶ美の文人だったが、彼の振り幅の大きい人生は画業にも反映している。酒井家の嫡流体制が整う中で立場が苦しくなり、武家社会のおきての中で、容赦なく切り捨てられることに不本意な思いをし、逡巡しゅんじゅんもしたはず。そうした生涯の中で心から慕う人と交流し、亡くなった際には俳句ではなく必ず和歌を詠んだ。この花鳥図の制作もそうした時期だった。彼の絵は、可愛かわいく軽そうに見えて重層的なのだ。(談)

 

[平常展]技術の粋 帝室技芸員の力作

竹内栖鳳筆「円山公園・平安神宮」左隻 部分 1896年 東京国立博物館蔵(有沢忠一氏寄贈)※14日まで展示
竹内栖鳳筆「円山公園・平安神宮」左隻 部分 1896年 東京国立博物館蔵(有沢忠一氏寄贈)※14日まで展示
重要文化財 鈴木長吉作「鷲置物」 1892年 東京国立博物館蔵(シカゴ・コロンブス世界博覧会事務局) ※5月26日まで展示
重要文化財 鈴木長吉作「鷲置物」 1892年 東京国立博物館蔵(シカゴ・コロンブス世界博覧会事務局) ※5月26日まで展示

 特別展「両陛下と文化交流」の出展品と関連性のある作品が、総合文化展(平常展)に陳列されており、美術工芸品の奥深い魅力に触れられる(展示替えあり)。平常展は、特別展の観覧券で鑑賞できる。

 特別展では、明治から戦中にかけ、日本の美術界を先導した「帝室技芸員」の海野勝ミンうんのしょうみん、高村光雲の作品を紹介。平常展の帝室技芸員の力作も、近代美術の技術の粋を濃厚に伝える。

 本館18室「近代の美術」のコーナーでは、彫刻家・鈴木長吉の代表作「鷲置物」が目を引く。岩の上で翼を広げて獲物を狙うワシの銅像で、一枚一枚の羽根の写実的な造形が迫真的だ。

 日本画家・竹内栖鳳せいほう「円山公園・平安神宮」(6曲1双)は、湿った空気感の中に情緒深い景観が浮かび上がる。「H夫人肖像」は洋画家・和田英作の代表作だが、暗い色調などを夏目漱石が酷評した作品だ。

 また、本館7室「屏風びょうぶふすま絵―安土桃山~江戸」では、伝土佐光則筆「源氏物語図屏風(若菜上)」が清らかな美しさをたたえる。特別展でも、天皇、皇后両陛下が海外で紹介された、同じ伝土佐光則筆の「源氏物語図画じょう」を展示しており、見比べるのも面白い。

 一方、本館8室「書画の展開―安土桃山~江戸」では、能筆で知られた後陽成ごようぜい天皇筆「書状」など、天皇自筆の書跡などが多く展示されており、歴史の息吹を伝えている。

 

高山辰雄の屏風も

高山辰雄「主基地方風俗歌屏風」 右隻 1990年 宮内庁用度課所管
高山辰雄「主基地方風俗歌屏風」 右隻 1990年 宮内庁用度課所管

 特別展「両陛下と文化交流」は展示替えにより、高山辰雄「主基すき地方風俗歌屏風びょうぶ」や、皇后さまが海外訪問で着用された「イヴニングドレス」なども新たに出品されている。

 また、同展では通常の開館時間より30分早く、午前9時から観覧できる限定チケットを販売する。3600円で音声ガイドと図録付き。会期末で混雑が予想される23日(火)~26日(金)に行い、各日50人限定の貸し切り。往復はがきによる応募(12日必着)方法などは展覧会公式サイトから。

 

特別展 御即位30年記念「両陛下と文化交流―日本美を伝える―」

【会期】今月29日(月・祝)まで

【会場】東京国立博物館 本館特別4・5室(東京・上野公園)

【開館時間】午前9時30分~午後5時 ※金・土曜日は午後9時まで ※入館は閉館の30分前まで

【休館日】月曜日 ※ただし、今月29日(月・祝)は開館

【観覧料】一般1100円、大学生700円、高校生400円。20人以上の団体は各100円引き。中学生以下無料

【展覧会公式サイト】https://tsumugu-exhibition2019.jp/

【問い合わせ】03・5777・8600(ハローダイヤル)

【主催】東京国立博物館、宮内庁、文化庁、読売新聞社

 

【特別協賛】 キヤノン サントリーホールディングス 資生堂 JR東日本 積水ハウス 高島屋 日本たばこ産業 野村ホールディングス 三井不動産 三菱地所 明治ホールディングス

【協賛】 JTB 竹中工務店 成田国際空港 日本郵政グループ 三井住友銀行 三菱重工業 三菱商事

(50音順)

無断転載禁止
518877 0 紡ぐプロジェクト 2019/04/03 05:00:00 2019/04/03 07:45:40 3日付け編集特集用:紡ぐプロジェクト:特別展 御即位30年記念「両陛下と文化交流-日本美を伝える-」の後期展示が始まり、展示された酒井抱一の「花鳥十二ヶ月図」:(文化部文化へ宛先送信してください)(2日、東京都台東区の東京国立博物館で)=清水敏明撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/04/20190402-OYT8I50046-T.jpg?type=thumbnail

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