[解剖財界]就活編<7>韓国「七放」目指すは日本…採用自由化 国際競争へ

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鷺梁津の就活生ら。周辺には勉強専門部屋や予備校が多く並ぶ(8日午後、ソウル市で)
鷺梁津の就活生ら。周辺には勉強専門部屋や予備校が多く並ぶ(8日午後、ソウル市で)
鷺梁津で友人と一緒に就活のアドバイスをしあう就活生(7日午後、韓国ソウル市で)
鷺梁津で友人と一緒に就活のアドバイスをしあう就活生(7日午後、韓国ソウル市で)

 氷点下の気温にいてつく韓国・ソウル市の鷺梁津ノリャンジン地区。1キロ・メートル四方ほどの一角に林立する就職予備校には全国から就職浪人生が集まる。

 近くに住む金乾キムコン(28)は今春、最難関とされるソウル大学大学院を卒業する予定だ。だが、就職先は決まっていない。LGグループの研究職の試験に出願しているが、「希望通りにいくか分からない」と自信なげだ。

 サムスン、LG、現代――。韓国の学生の多くが財閥系のグローバル企業を目指す。数百倍の狭き門を突破して社員になれるのはごくわずかだ。数年の就職浪人も当たり前で、中小企業は採用難に悩む。財閥系の給与の半分に満たない中小は、30歳の新入社員もめずらしくない。韓国の15~24歳の若年失業率は10%前後で高止まりが続く。

 日本は経団連が定める就職活動ルール「採用指針」に沿って「新卒一括採用」を導入してきたが、韓国では既卒者にも門戸を開いたことで、一括採用は崩れた。日韓ともに大企業に入社できる大学生は1~2割未満だが、日本の若年失業率は3・7%と極めて低い。「一発勝負」の色合いが濃く、学生は不本意であってもいったんは就職先を決めるからだ。リクルートキャリア就職みらい研究所長の増本全(38)は「新卒一括採用の大きなメリットだ」と指摘する。

 「七放世代」。キムのように鷺梁津周辺にいる20~30代の若者らはそう呼ばれる。七つの人生イベントを放棄するという意味だ。2010年ごろは、「恋愛」「結婚」「出産」の「三放」だった。後に「人間関係」「マイホーム」が加わって「五放」となり、現在は「就職」と「夢」まで諦めるものが増えた。

 韓国政府による対策は後手に回る。17年5月の大統領選で当選した文在寅ムンジェイン(66)は格差是正策で最低賃金の引き上げを打ち出したが、企業が採用を絞り込む副作用を生んだ。隣国の事情は決して日本に無縁ではない。七放世代が今、人手不足にあえぐ日本の大企業を目指し始めたからだ。

 昨年11月、ソウル市と韓国第2の大都市・釜山で開かれた「日本就職博覧会」。大学生を中心に約1000人の若者がスーツ姿で日本企業の会社説明会や面接に臨んだ。採用意欲も強い。ソフトバンクや日産自動車といった日本でも人気の高い企業など約100社が参加し、すでに80人以上に内定を出した。

 韓国は19歳以上の男性に最大22か月の兵役義務を課している。兵役で培われた体力や規律性を魅力的に感じる日本企業は少なくない。さらに、英語能力を示すTOEICの平均点をみると、韓国は676点で世界47か国のうち17位につけ、39位(517点)の日本を大きく上回る。

 日本では昨秋、経団連が採用指針の廃止を決めた。通年採用への転換、就活自由化の布石だ。3年前には経済3団体の一つ、経済同友会が「新卒・既卒ワンプール採用」の導入を提言した。卒業後5年以内の既卒者も大学生と一緒に通年採用の対象にすることを目指す。先行例の一つが15年に通年採用に移行したソフトバンクグループだ。入社時に30歳未満なら、新卒、既卒を問わない。

 技術革新で変化が速い時代。就活自由化は、国際競争に勝ち抜くグローバル人材など多様な働き手の確保に重要だというのが企業の言い分だ。学生が再挑戦の機会を得られるのが利点だが、異論もある。新卒一括が崩れれば、多くの若者は就職浪人して大企業を目指すのではないか――。就活史を調べた文化放送キャリアパートナーズ主任研究員の平野恵子(50)は、若者雇用の「韓国化」を懸念する。

 経済のグローバル化を背景に、国境を越えた人材の流動化が進む。楽天は新卒採用の技術者の半分以上を外国人が占める。就活・採用の自由化が進めば、世界各国の優秀な人材との競争は今後、激しさを増すことになる。日本の若者たちに、その覚悟はできているだろうか。(おわり。敬称略、肩書は当時。山下福太郎、松尾大輝、安藤亨が担当しました)

 

[Q]グローバル人材とは…語学堪能 異文化理解も

 Q グローバル人材とは。

 A 明確な定義はないが、語学だけでなく、異文化理解や主体性、積極性など世界で活躍するために必要な能力を備えた人材を指す。

 欧米の有名大学院で学び、経済や金融などで高度な専門性を持つ学生は、国籍にかかわらず、世界各国の企業間で獲得競争が激しい。日本企業は後れを取っているとされる。毎年秋、米国で開かれる「ボストンキャリアフォーラム」には、日本人留学生の採用を目指す日本企業が多く出展する。

 Q 育成の取り組みは。

 A 政府は、2011年に関係閣僚による「グローバル人材育成推進会議」を設置。同年には経団連も学生を対象にした奨学金制度を設け、将来、日本企業で活躍する人材の育成を図っている。

 東大や立命館大など多くの大学も、育成プログラムを開設する。イオンは昨年、上智大学側と協定を結び、海外拠点に学生を招いたインターンシップ(就業体験)を行っている。

439006 1 経済 2019/02/11 05:00:00 2019/02/11 05:00:00 2019/02/11 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20190210-OYT1I50054-T.jpg?type=thumbnail

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