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星野リゾート「倒産確率」を公表…自分が何をすべきか考え、動いてほしいから

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星野リゾート代表 星野佳路氏 60

 新型コロナウイルスの広がりで観光業界が打撃を受けている。経営破綻したホテルや旅館の再生で知られる星野リゾートの星野佳路代表に、対応策を聞いた。(聞き手・二階堂祥生 写真・鈴木竜三)

星野佳路氏
星野佳路氏

 社内専用の私のブログで会社の「倒産確率」を公表しています。予約や財務の状況など、幾つかの変数をもとにはじき出した数値です。

 ブログは以前から掲載していて、新型コロナの影響が深刻になった4月以降は情報発信の頻度を増やしました。危機の中では、経営の内容を正直に伝えることが何より大切だからです。その中でも倒産確率の記事へのアクセスは非常に多く、5月中旬に初めて掲載した時は、社員から「久しぶりに星野リゾートらしい刺激的な内容だった」などの反応が返ってきました。

 もちろん、取り組み次第で確率は下げられます。公表したのは、会社の施策に共感を持ってもらい、自分が何をすべきかしっかり考え、動いてほしいからです。具体的な数値は明かせませんが、6月にいったん上がった倒産確率は、予約が上向いてきた7、8月に下がりました。

 <バブル崩壊期の1991年に長野県軽井沢町の家業の温泉旅館を継いだ。2008年のリーマン・ショックや11年の東日本大震災などに見舞われてきた>
 今回のように旅行需要が全国、全世界で同時に弱まってしまうのは初めての経験です。とはいえ、ワクチンが開発されれば解決するわけで、出口が見えている危機も珍しい。あと1、2年、長くて3年と見込んでいます。

 バブル崩壊やリーマン後の景気低迷はいつまで続くかわからなかったし、震災による原発事故の風評被害にはいまだに苦しめられています。

 コロナ危機を克服できれば、特に若い社員にとって大きな自信、貴重な経験になるはずです。だからこそ、倒産確率も含めて会社の動きをきちんと知ってもらう必要がある。ゲーム感覚を取り入れ、危機を楽しんで乗り越えてほしいという思いもあります。

 <2019年の日本の旅行市場は約27・9兆円に上る。このうち、訪日外国人客の消費額は4・8兆円で、国内客が22兆円と全体の8割近くを占める>
 近年、訪日外国人客が急増しましたが、実際の国内の観光市場の多くは日本人によるものです。日本人が海外旅行で使っていた消費の分も合わせて国内で取り込めれば、訪日客の落ち込みをカバーできるはずです。

 国内旅行の中でも、近隣地域を観光する「マイクロツーリズム」に力を入れようと提唱しています。自宅からだいたい2時間以内の旅を想定していて、県をまたいで商圏があることがポイントです。例えば群馬の温泉地なら、長野の人も顧客になり得ます。

 海外から年に何度も来てもらうのは難しいですが、近隣の人ならリピーターになってくれる可能性がある。しっかりと取り組めば安定した需要が見込めるはずです。

 そもそも昔の日本の観光はほとんどマイクロツーリズムで、急に新しいことをやろうというのではありません。各観光地、事業者は改めてこの市場を見直し、知恵を絞らないといけない。行政もまた、一律に県境の往来を規制するのではなく、きめ細かい感染対策を考えるべきです。

 このほか、テレワークの広がりもチャンスになります。特に平日の宿泊利用を促していく必要があります。

 <青森屋(青森県三沢市)が職人とねぶたを共同制作し、宿泊者に見学してもらうなど、各地の施設が独自に魅力作りに取り組んでいる>
 地元に根付き、日々接客している現地の社員は多くのアイデアを持っています。現場の裁量を大きくして、それぞれの工夫によって施設の価値を高められるようにしています。

 そのためには、どんな立場であろうと、誰もが自由に意見を言い合える環境が必要です。社員の関係がフラットな組織にしています。名前は役職ではなく「さん付け」で呼び、私も含めて会社に自分の部屋を持つ人はいません。

 私が軽井沢で引き継いだのは、老朽化した小さな木造旅館です。若い人に就職してもらうには、楽しく仕事ができる会社にしなければいけないと考えたことが、フラットな組織作りの原点にあります。米経営学者のケン・ブランチャード氏が「人材を生かす、社員のやる気を引き出すのは会社の仕組みである」と説いていて、大きな影響を受けました。

 <「リゾート運営の達人になる」という経営ビジョンを掲げる>
 社長に就任した頃、全国で大型リゾート施設の建設が相次いでいました。その数年前にリゾート法が施行されたためです。供給過剰の中で施設を開発し、所有するのはリスクだと判断し、運営に特化する会社を目指すことにしました。

 最初の案件が山梨県北杜市の「リゾナーレ八ヶ岳」です。2001年に巨額の赤字を抱えていた会員制ホテルを引き取り、経営を軌道に乗せました。北海道占冠村しむかっぷむらの「トマム」などの再生も果たし、次第に案件が増えていきました。運営に特化し、スピード重視で取り組んできたことが良かったと思います。

 どれか一つでも失敗したら今頃、会社はなかったかもしれません。でも、リスクを取らないと次はなく、走り続けるしかなかった。案件をいただいた時にためらったり、怖がったりする余裕はなかったというのが正直なところです。

 <来年で社長就任30年を迎える>
 多くの人材が育っており、私があまり関与しなくても会社はうまく機能しています。とはいえ、得意分野である集客については今後も深く関わっていきます。集客の主戦場は今やインターネットです。多くの商品を比較できる旅行サイトが力をつけており、いかに自社のホームページを充実させて差別化できるかが重要になります。

 海外事業にも力を入れています。インドネシア・バリ島、台湾のほか、1月からハワイで施設運営を始めました。日本で培った独自のノウハウを生かし、世界に通用するホテル運営会社になることを目指します。

 今は新型コロナで海外渡航が難しく、足踏みしていますが、少子高齢化で国内市場の縮小が予想される以上、グローバル化は避けられません。目前の危機をどうしのぐかはもちろん重要ですが、その後を考え、備えていくこともまた大事です。

 

45施設 星野リゾートは国内42、海外3の計45施設を運営している。「星のや」「リゾナーレ」「界」のほか、都市観光ホテル「OMO(おも)」、主に若者向けのカジュアルな「BEB(べぶ)」などのブランドがある。土地・建物は不動産会社などが所有し、運営を請け負っている。

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プロフィル
星野 佳路(ほしの・よしはる)
 星野リゾート代表。1960年、長野県軽井沢町の老舗温泉旅館の4代目として生まれる。83年慶大経卒。米コーネル大ホテル経営大学院修了。91年に社長。現在の肩書は「代表」。

~星野さんを知るもう一つのキーワード~

スキー…国内外で年間60日の滑走が目標で、実際にはもっと多いことも。健康のためなどと考えているのではなく、「ただただ好きだから滑る」。新型コロナの感染拡大で今年は断念したが、例年だと夏にはニュージーランドなど南半球のスキー場に出かける。 もともとはスケートが得意。大学ではアイスホッケー部で、主将も務めた。

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1492247 0 経済 2020/09/21 13:06:00 2021/06/08 11:20:21 2021/06/08 11:20:21 「リーダーズ」用、星野リゾート代表、星野佳路さん(8月7日、東京都千代田区で)=鈴木竜三撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/09/20200916-OYT1I50057-T.jpg?type=thumbnail

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