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「新しい日常」とは何か。あるべき生き方、暮らしとは――。コロナ禍の中で人々は自問し、価値観や生活様式を大きく変えようとしている。
企業もまた変わらねばならない。コロナ後の社会のニーズに応えられなければ、生き残ることは難しいからだ。
モノやサービスを売るだけでなく、それを日本の活力や課題解決につなげる。あるいは、夢のあるテーマや目標を、自由で新しい働き方を、社会に示す。そんな「変革力」が今、企業に求められている。顧客を大切にする日本企業ならではの細やかなデータ活用も重要になるだろう。
コロナ禍の中で変革に取り組む企業を追った。
「幸福の配列」職場に活力

〈幸福〉を可視化して、ビジネスにつなげる――そんなことが果たして可能なのだろうか。
東京都国分寺市にある「日立製作所」の中央研究所。2万7000本の樹木が生い茂る広大な緑地だ。「協創の森」とも呼ばれる環境で、フェロー(役員級の研究者)の矢野和男(61)は最新のデジタル技術を用い、「人間の幸福度」を計測する手法を編み出した。
着手したのは2004年。スマートフォンなどのセンサーを介し、社内外の数千人から体の動きを「0」と「1」に置き換えた膨大なデータを集めた。さらに、様々な質問で「ある日」が幸福であったかを尋ね、「動き」のビッグデータとの相関性を人工知能(AI)で分析した。
その結果、人が幸福を感じた時に現れる、複雑だが特有の「0」と「1」の配列が見つかったという。
こうしたスマホから得られるデータで、ある集団の幸福度がわかる。幸福な人が多い職場は生産性が高いことも確認された。「幸福の配列」が多く現れるように働き方や職場環境を変えていけば、人も組織も活性化するだろう。 大塚商会など複数の企業が専用のスマホアプリとともに矢野のシステムを導入し、効果を上げている。
活用できる場は企業に限らない。
「社会の活力も源泉は幸福感だ。それを可視化すれば、あるべき暮らし方を見いだすツールともなる」。矢野の視線の先に、ポストコロナの時代がある。
23年に空飛ぶタクシーを運行する――そんな変革に挑むのは、トヨタ自動車を29歳で退職し、18年に「スカイドライブ」を設立した福沢知浩(33)だ。
バッテリーで動くプロペラで浮上し、自動運転で目的地まで飛ぶ。すでに有人の飛行試験にも成功した。まずは東京と大阪の湾岸地域でサービスを始める計画だ。
50人ほどの社員の中には、三菱重工業が開発中のジェット旅客機「三菱スペースジェット」のチーフエンジニアを務めた岸信夫(61)もいる。
19年に福沢と出会い、コロナ禍で経済がどん底だった20年4月、一念発起して「空飛ぶクルマ」の開発競争の現場に飛び込んだ。
大企業での経験やノウハウと、スタートアップ企業の大胆な発想や行動力を組み合わせ、変革力を生み出す。人材の“化学反応”が増えるならコロナ禍はチャンスに転じるかもしれない。(文中敬称略)