[明日を築く]<4>分散力…人も企業も さらば東京
完了しました

東京から地方へ。コロナ禍を機に、人と企業が動き始めた。一過性でなく、価値観の変化による流出ならば、長年の一極集中を正す「分散力」の胎動となるかもしれない。
甲府盆地を見下ろす山梨県笛吹市の山あいで、古民家に荷物を運ぶ夫婦がいた。ともに東京都内の会社に勤める高橋雄基(40)と妻の加奈子(30)だ。間もなくここに移り住む。
築120年となる“新居”はJR甲府駅から車で20分ほどの距離にある。手入れに時間はかかりそうだが、「庭付き8DK」は東京では望めない広さだ。環境も素晴らしい。
以前から漠然と地方暮らしを考えていた2人。その背中を押したのが、コロナ禍だった。
昨年3月以降、2人ともほとんど自宅でテレワークを続けている。通勤は週1回程度。東京に住む必要はない。2LDKのアパートは手狭で、むしろ仕事に支障をきたす。
「野菜を作って自給自足しようか」「囲炉裏で干物をあぶって一杯やりたいね」「近くには温泉もあるよ」。思い描く新生活に夫婦の夢は膨らむ。
自治体と連携する「ふるさと回帰支援センター」によると、昨年6~11月の移住相談は前年同期を14%上回る1万7256件を記録した。東京から近県への移住が目立つという。
人材サービス大手「パソナグループ」代表の南部靖之(69)は昨年5月の経営会議で東京脱出を宣言した。「兵庫県の淡路島に本社機能を移すぞ」
南部は東日本大震災の経験などから「東京一極集中は危うい」と感じていた。事業継続計画(BCP)を担保する解が「分散」だった。パソナにとって淡路島はホテル運営などを通じてなじみの地でもある。コロナ禍で人影が消えた首都の光景が決断を早めた。
登記上の本社と対面営業要員は東京・大手町に残すものの、経営企画や管理部門などの社員1800人のうち、1200人が2024年春までに異動する。すでに120人が東京から約500キロ離れた淡路島に居を移した。
営業部門にいた池田征史(37)は、志願してパソナが経営するレストランの支配人となり、家族4人で移住した。当初反対していた妻も、今は海のそばで子育てする日々に満足している。年の瀬に第3子を授かり、幸せな新年を迎えた。
企業にとって、これまでは「集中」による効率化の追求が経営戦略のキーワードだった。それはもはや、唯一の解ではない。