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「見えざる手」が機能しない市場、力を発揮するパズル思考の「マッチング理論」

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 保育園の待機児童、臓器移植のドナー(提供者)探し、そして新型コロナウイルスのワクチン接種――。こうした現代の諸課題に対し、経済学やコンピューターサイエンスの知見を基に制度を設計し、最適解を示す「マーケットデザイン」という学問がある。
 この分野で「世界をリードするトップ研究者」と評される小島武仁氏が昨年秋、米スタンフォード大教授を辞し、東京大マーケットデザインセンターの初代センター長に就いた。
 マーケットデザインは2012年と20年にノーベル経済学賞を受賞したが、日本ではまだ聞き慣れない。注目の研究分野のトップランナーが目指す「あす」を聞いた。(社会部 森田啓文)

「見えざる手」から「見える手」へ

 経済学の父、アダム・スミスの話から始めさせてください。

 彼は、人や企業が自らの利益を求めて行動すれば、需要と供給のバランスで価格が調整され、「見えざる手」に導かれるように経済成長がもたらされると説きました。このように伝統的な経済学は、市場の仕組みを「他から与えられたもの」と捉え、その働きを外側から分析する学問です。

 対してマーケットデザインは、市場を「設計(デザイン)できるもの」と考えます。関係する人々の希望や動機付け(インセンティブ)を酌みとりつつ、課題解決に向けて新制度を提案したり、実務の内側で制度を改善したりします。

 大きくは、1990年代の米国で携帯電話の電波利用権の競売に成功した「オークション理論」と、比較的最近になって注目された「マッチング理論」に分けられます。私が特に力を入れているのは後者です。

 マッチングはもともと数学の理論ですが、様々な条件の下で「人と人」「人とサービス」を結びつけ、限られた資源を効率よく、不満なく、適材適所に配分できる情報処理手順(アルゴリズム)を研究します。好みなどを入力して恋人を探す「マッチングアプリ」がイメージしやすいでしょうか。

例えば保育園の入園枠。効率よく配分できる情報処理を研究

 日本でも関心が高い保育園の待機児童問題を基に、実例を紹介します。

 例えば0歳児1人の保育コストは月20万~40万円です。ほぼそのまま利用料に反映される米国に対し、日本は認可保育料を政策的に月0~数万円に抑えています。価格メカニズムは働かず、超過需要が生じます。入園枠という「希少化したサービス」と、それを欲しがる「子供(家庭)」をうまくマッチさせる必要があります。

 大半の自治体では、親の働き方やきょうだいの有無などを点数化し、入園希望者に優先順位を付ける「ポイント制」を採用しています。これも一種のマッチングですが、入園枠の供給は足りていません。

数学者を志して東京大理科1類に入学したが、周囲の優秀さに自信を失い1年留年。失意の中、友人が貸してくれた経済学の教科書に感銘し、経済学部に進んだ(東京・本郷の東京大経済学研究科棟で)=鈴木竜三撮影
数学者を志して東京大理科1類に入学したが、周囲の優秀さに自信を失い1年留年。失意の中、友人が貸してくれた経済学の教科書に感銘し、経済学部に進んだ(東京・本郷の東京大経済学研究科棟で)=鈴木竜三撮影

 保育士の配置基準は法で定められ、保育士1人が見られる子供の数は0歳児3人、1~2歳児6人など年齢ごとに異なります。どの自治体も園ごとに年齢別の定員を事前に決めた上で、入園する子供を割り振ります。

 このやり方では、年齢によって定員割れや超過がでやすい。私たちはここに着目し、各園の年齢別の定員を事前に決めるのではなく、子供の年齢や人数と、保育士の人数をマッチさせて、最適な年齢別の定員を決めるアルゴリズムを開発しました。

 東京都文京区や山形市の協力により実際のデータで試算した結果、どの保育園にも行けない子供が大幅に減るとの結果が得られました。しかも配分はパソコンで数秒で完了します。

 もちろん、保育士の技能や園内の部屋割りなどの都合から、現実にはさらに複雑な条件設定が必要になります。これを数年内に保育現場に実装すべく、現在、複数の自治体や企業と連携し、アルゴリズムの改良を進めています。

新型コロナウイルスのワクチンの配分、マッチング理論が扱う問題

 マーケットデザインが力を発揮するのはこのように、政策的要請や倫理性、公平性などの理由で価格メカニズム、すなわち「見えざる手」が機能しない「市場」です。

 例えば、売買が禁じられ、価格が「ゼロ」に固定された移植臓器の提供にも活用されています。海外では約1万件の腎臓移植がマッチングにより実現しました。

 日本では年間約1万人の研修医と全国各地の病院とのマッチングで活用されています。

 そして今、世界中で重要なテーマとなっているのが、新型コロナウイルスのワクチンの配分です。

 医療従事者や高齢者を優先しつつ、製薬会社ごとに異なる「開封前の保管温度」や「包装単位」「開封後の保管条件」などのワクチンの特徴(制約)を組み合わせて、無駄なく、迅速に接種を進める必要があります。これはまさに、マッチング理論が扱う問題です。

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1841510 0 経済 2021/02/14 10:12:00 2021/02/14 10:12:00 2021/02/14 10:12:00 「あすへの考」用、小島武仁氏(東京大学大学院経済学研究科教授 東京大学マーケットデザインセンター所長、前スタンフォード大学教授)(東京・本郷の東大経済学部で)=鈴木竜三撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/02/20210209-OYT1I50037-T.jpg?type=thumbnail

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