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[WATCHERS 専門家の経済講座]国際的地位確立へ 東証正念場…原田喜美枝氏 中央大商学部教授

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信用落とした終日停止

 はらだ・きみえ 1993年阪大経卒、日本証券経済研究所専任研究員を務め、2001年東大院修了、経済学博士。12年4月から現職。52歳。
 はらだ・きみえ 1993年阪大経卒、日本証券経済研究所専任研究員を務め、2001年東大院修了、経済学博士。12年4月から現職。52歳。

 東京証券取引所で昨年10月1日早朝、売買システム(アローヘッド)に障害が発生し、終日にわたってすべての銘柄の売買が停止しました。停止後の再開ルールや手順が整備されていなかったためです。マーケットが丸1日止まるというのは、一昔前の途上国のようなイメージです。日本の取引システムの信任に関わる問題と言えます。

 東証は取引を全面的にシステム化しています。過去に数度のシステム障害が起こった反省から、今回のような事態は「起こりうるもの」として準備していたはずです。にもかかわらず、障害発生時のバックアップ態勢が5年も前から機能していなかったこともわかりました。日頃の訓練はしっかりできていたのか、疑問に感じました。

 終日の売買停止で失った国際的な信用を取り戻すには、再発防止の取り組みを進めるのはもちろん、わかりやすい説明が必要です。日本の株価に大きな影響を与えるのが外国人投資家です。彼らの果たす役割は大きく、信頼を裏切ってしまってはいけません。ホームページなどで英語でもしっかり情報発信をしていかなければなりません。

 国内で株取引の9割が集中する東証は、競合相手が実質的に存在しません。競争がなく、寡占と言うより独占に近い状態です。「官僚主義的」と言われる組織を改革し、風通しを良くすることも必要ではないでしょうか。

 日本が世界に開かれた国際金融センターとしての地位を確立できるよう、金融庁の金融審議会で議論が進められています。その実現に東証の関与は必要不可欠です。責任の重さをしっかり認識してほしいと思います。

効果薄い取引時間延長

 東証を巡っては、取引時間の延長議論も始まりました。現在は午前9時から11時半、12時半から15時までの計5時間です。取引時間を延ばせば、システムが停止しても復旧後に取引を再開できる可能性が高まることから、システム障害の再発防止策をまとめる中でテーマとして浮上しました。

 延長は過去にも数度、議題に上がりました。日本時間の16~17時に取引が始まるロンドン市場への「つなぎ」という意味合いもあるようですが、海外の証券取引所で株式が取引される日本の企業は少数で、東証に上場する外国企業も少ない。主要国の市場との連続性は重要事項にならないでしょう。この点、通貨が24時間取引される為替取引とは異なります。

 世界の証券取引所は、時価総額や売買代金、上場銘柄数などを競い合っています。取引時間が延長されれば売買が少しは増えるかもしれませんが、時価総額や上場銘柄数の増加には結びつきません。

 取引時間を延長してもメリットはあまりなく、証券会社などの負担が増すだけになる可能性があります。

 東証は来年4月、1部と2部、マザーズ、ジャスダックの4市場を廃止し、1部に代わる最上位市場で大企業が中心の「プライム」、中堅企業向けの「スタンダード」、新興企業を扱う「グロース」という3市場に再編します。その作業が大詰めを迎えるなか、同時に取引時間の延長となれば、再度、システム面での脆弱ぜいじゃく性が生まれるのではないかと危惧します。

市場再編 基準厳格に

 市場再編に目を向けると、1部からプライムへの移行方法に手ぬるさを感じます。現在1部の企業だと、プライムの基準に満たなくても自発的に辞退しない限り当面は残ることが可能です。これでは市場内の「二極化」につながりかねません。

 プライム市場は日本を代表する企業で構成されることになっています。上場には、政策保有株を除いた流通時価総額が100億円以上という厳しい条件が課せられます。現在の1部には時価総額が50億円前後の企業もたくさんあり、600社程度はプライムの基準を満たさないとみられます。日本銀行が購入した巨額の上場投資信託(ETF)で株価が「かさ上げ」されている企業もあります。ETFがいずれ売却されるならば、企業によっては大きな影響が出るでしょう。

 市場再編は良いことですが、それぞれの区分に見合った企業が残るようにするには、入ってくる基準を厳しくするだけでなく、出て行く方もしっかり後押しする必要があります。

 代表的な株価指数が時間をかけて見直されることになりました。現在、日経平均株価(225種)とともに日本の代表的な株価指数は、東証1部全体の2192銘柄(5月末時点)の値動きを示すTOPIXです。投資家にとって、TOPIX連動のETFなどを買う際、アナリストが分析対象としていない小さな会社の株にも資金を投じなければいけない状態と言え、望ましくありません。海外では、代表的指数を構成する銘柄の数を絞っています。

 市場としての国際的な地位を高め、海外マネーを取り込めるのか、東証自身が試されています。(聞き手 秋田穣)

[HISTORY]株取引の全面システム化(1999年)

東証立会場の閉場式では紙吹雪が舞った(1999年4月)
東証立会場の閉場式では紙吹雪が舞った(1999年4月)

 東京証券取引所(東京・日本橋兜町)で1999年4月30日、株券売買立会場が121年の歴史に幕を閉じ、大型連休明けには株式売買システムでの取引に全面移行した。宙にカタカナの「ト」を書いた後に両手でハンドルを握るポーズはトヨタ自動車、両手でアルファベットの「T」を2回作ればNTT――。銘柄や株数を伝える名物の「手サイン」も役目を終えた。

 立会取引は、東証の前身にあたる東京株式取引所が創設された1878年に始まる。終戦直前の1945年8月10日、戦局の悪化で中止となり、49年5月に再開された。占領下では、進駐軍が立会場を体育館やダンスホールに使ったこともあったという。

 その後、取引量の拡大や情報通信技術の発展により、欧州の取引所では70年代から立会場をシステムに切り替える動きが進んだ。東証では82年にまず2部で導入され、1部でも立会場が閉鎖される前年の98年3月、すべての銘柄がシステムで取引できるようになっていた。閉鎖までの1年間、「立会場では『静かな』日々が続いていた」(東京証券取引所50年史)という。

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2110727 1 経済 2021/06/09 05:00:00 2021/06/09 05:00:00 2021/06/09 05:00:00 原田喜美枝氏(2日午後1時33分) https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210608-OYT1I50146-T.jpg?type=thumbnail

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