読売新聞オンライン

メニュー

容量わずか1・44メガでも…しぶとく現役、ニッチな分野で生き残る

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

[New門]は、旬のニュースを記者が解き明かすコーナーです。今回のテーマは「フロッピーディスク」。

 中高年以上の「元ワープロユーザー」なら、フロッピーディスク(FD)の世話にならなかった人はいないだろう。大容量の記録媒体に取って代わられ、目にする機会は減ったが、実は、ニッチな分野で今も使われている。容量わずか1・44メガ・バイトのFDが生き残っている理由とは――。

2000年度がピーク 一気に衰退

 紀陽銀行(和歌山市)の事務システム部には毎日、取引先から数十枚のFDが届く。自動引き落としの対象になる口座情報などが入っており、行員が1枚ずつ専用の読み取り装置で処理する。インターネットバンキングサービスの方が手軽だが、一部顧客から「慣れた方法で」との要望が根強いため続けている。関西みらい銀行(大阪市)など、同様の対応を取っている金融機関はほかにもある。

 初期のFDは1967年に米IBMが開発し、8インチ(約20センチ)サイズから5・25インチ(約13センチ)、3・5インチ(約9センチ)へと小型化が進んだ。文書の保存などで盛んに使われ、国内最大手だったソニー(現ソニーグループ)の出荷量は、ピーク時の2000年度に4700万枚に達した。しかし、その頃からワープロはハードディスクドライブ(HDD)を備えたパソコンに急速に置き換わり、容量が大きいDVDなども相次ぎ登場した。各社はFDの生産を打ち切り、ソニーも11年3月に撤退した。

長年使った信頼の技術 産業の支え

 それから10年。FD約70万枚に相当する容量1テラ・バイトの持ち運び型HDDが5000円台で買える今も、FDは産業を支え、未使用在庫品が売買されている。

 例えば、京都の伝統産業・西陣織。とみや織物(京都市上京区)は1990年頃から、織機の制御にFDを使っている。帯1枚あたりFD10~15枚を抜き差しし、複雑な模様を織り上げる。かつては、模様に合わせて様々なパターンで穴を開けた厚紙を大量に使い、制御していた。FDの導入は画期的だった。

 帯をどう織るかは各社の機密データだ。同社の坂本容一部長(47)は「ネットを経由せずFDで受け渡しすれば、外に漏れる心配がない」と語る。他の記憶媒体への切り替えは費用がかさみ、苦戦する近年の売り上げに見合わないことも、使い続ける理由という。

 楽器大手ヤマハの子会社は、過去に製造された自動演奏ピアノ向けに、演奏データが入ったFDを今も販売している。

 米紙ニューヨーク・タイムズによると、米国の大陸間弾道ミサイルの制御に2019年までFDが使われていた。誤作動が許されないだけに、長く使われ、信頼性が確立した「枯れた技術」が最適とされていたという。

 

10年程度が限界

 とはいえ、FDには弱点がある。まず、湿気やカビに弱い。外部からの磁気でデータが破損する恐れもある。長期のデータ保存には向かない媒体だ。

 国立国会図書館(東京)は、雑誌の付録やゲームソフトなどを保存したFD(推定1万2500枚程度)のデータを、長期保存ができる別の媒体に移し替える「マイグレーション」を進めている。

 職員が1枚ずつパソコンで読み取ってハードディスクにいったん移し、まとまった容量になれば30年程度保存できる特殊なDVDにまとめる。毎日30~50枚ずつ進める地道な作業で、今後も数年かかるという。電子情報企画課の徳原直子室長(50)は「放っておけば、次世代に引き継ぐ日本の資産が失われてしまう」と意義を強調する。

 FDは、保存状態などによって10年程度で読み取りが難しくなるケースが多い。職場や自宅に眠っているFDに貴重なデータを残しているなら、そろそろ掘り起こし、マイグレーションに取り組んでみた方がいいかもしれない。

[MEMO]磁気テープ 需要急拡大

 姿を消しかけた記録媒体が復活した例もある。カセットテープやビデオテープに代表される磁気テープは、DVDなどの普及で個人向けの需要はほぼ消滅したものの、膨大なデータを長期保存したい企業や研究機関向けの需要は急拡大している。

 磁気テープの世界シェア(占有率)の7割を占める富士フイルムによると、近年、国内市場はデータ容量ベースで年30%増のペースで伸びている。高まる需要を受け、同社は2020年12月、一巻きで世界最大容量の580テラ・バイトに達する磁気テープを製品化すると発表した。1・44メガ・バイトのフロッピーディスク約4億2000万枚分にあたる。

 磁気テープは、条件が整えば50年以上データを保存できる。ハードディスクなどと違って保存期間中は電力を使わず、インターネットからも遮断されているので、データを盗まれる心配も少ない。コストも安く、10年間でかかる費用はクラウドの4割程度で済む。

 人工知能(AI)、高精細の映像の普及で、世界的に流通するデータ量は急拡大している。全データのうち、作成されてから時間がたって使用頻度が低くなった「コールドデータ」が8割程度を占めるとされ、保存には磁気テープが適しているという。

  大阪経済部 吉田雄人  金融や流通業界を担当。FDのように、地味でも欠かせない存在として長く働き続けたい。

無断転載・複製を禁じます
2129715 0 経済 2021/06/17 05:00:00 2021/06/17 14:56:12 2021/06/17 14:56:12 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210616-OYT1I50131-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)