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[スキャナー]米経済再開、求人最多でも働き手不足…大手賃上げ続々

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 経済活動の本格再開が進む米国で、人手不足が顕在化している。企業が求人を大幅に増やしても、仕事の再開に慎重な働き手が依然多いためだ。大幅な賃上げに踏み切る企業も大手を中心に相次ぎ、一段の物価上昇を招く懸念が出ている。

 (ワシントン 山内竜介、ニューヨーク 小林泰明)

ニューヨーク中心部のタイムズスクエア周辺は活気を取り戻しつつある=小林泰明撮影
ニューヨーク中心部のタイムズスクエア周辺は活気を取り戻しつつある=小林泰明撮影
「NOW HIRING(従業員募集中)」の看板を掲げる飲食店(12日、米メリーランド州で)=山内竜介撮影
「NOW HIRING(従業員募集中)」の看板を掲げる飲食店(12日、米メリーランド州で)=山内竜介撮影

採用難

 「店のドアに求人の紙を貼り、ネット広告でも募集したが、条件を満たす店員が採用できない。人を雇うのが本当に難しくなっている」。米イリノイ州シカゴ郊外でカフェを経営するローラ・メイクラクさん(51)は苦境を訴える。

 全米自営業連盟によると、必要な人員を確保できない中小企業が5月は過去最高の48%に上る。新型コロナウイルスワクチンの普及で経済活動の正常化が進んだ春頃から、企業の採用意欲が急激に高まった。4月の求人件数は前月から約100万件増の930万件で、2000年の統計開始以降で最高を記録した。

 だが、実際に採用できた数は608万人にとどまる。5月時点の就業者数はコロナ禍前をなお約760万人下回り、飲食業を中心に依然として仕事の再開に慎重な働き手が多いことが大きな理由とみられる。ローラさんのカフェのように個人経営の店舗や中小企業は、賃上げなどの待遇を改善する余力が小さい。

争奪戦

 一方、大企業は賃上げで働き手の囲い込みに走る。

 インターネット通販大手アマゾン・ドット・コムは5月、米国とカナダで物流関連の従業員7・5万人を採用すると発表した。18年に最低時給を15ドルに引き上げたが、今回の募集では時給17ドル(約1870円)以上と上乗せした。入社時には最大1000ドル(約11万円)の一時金も支給する。「経済の再開で、様々な業界で新しい従業員の需要が高まっている」(アマゾン幹部)と見ている。

 米国の直営店で働く3・6万人超を対象に平均10%の時給引き上げを決めた外食大手マクドナルドの幹部も、「業界有数の給与を提供するという約束を強化するものだ」と強気の構えだ。

 バイデン政権は、米国の連邦最低賃金を現在の時給7・25ドルから15ドルに倍増させる公約を掲げており、実現の見通しは立っていないものの賃上げ圧力が高まりそうだ。労働者の所得増を通じて格差是正を図る狙いだが、大手と中小の間で企業業績の二極化が一段と進む副作用が懸念される。

失業給付

 働き手が労働市場に戻らないのは、バイデン政権の手厚い失業者支援策が原因との見方もある。失業保険の給付額は9月上旬まで週300ドル(約3万3000円)の上乗せ措置が続き、米シカゴ大の調査では受給者の42%が実際に働くよりも多くの収入を得ている。

 野党・共和党は「失業者の就職意欲を失わせている」と批判を強めている。共和党が知事を務める25州は上乗せ措置を前倒しで終了すると決めているものの、どこまで人手不足の解消につながるか不透明感が強い。

 さらに学校の対面授業やコロナ禍で閉鎖された託児所の再開の遅れが、子育て世帯の職場復帰を妨げる。飲食や小売りなど接客業では感染リスクへの警戒感が依然続く。調査会社オックスフォード・エコノミクスのグレゴリー・ダコ氏は「『人材の供給制約』は少なくとも数か月は続く」と話し、ミスマッチの解消は容易ではないと指摘する。

インフレ招く恐れ

 人手確保に向けた賃上げの動きがさらに広がれば、一段の物価上昇(インフレ)を招く懸念がある。5月の平均時給は前年同月比2%増と、前月(0・4%増)から大幅に上昇。比例するように5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比5・0%上昇と、約13年ぶりの高い伸びを記録した。

 バイデン政権は、コロナ感染拡大で悪化した経済の立て直しに向けて、2022会計年度に約6兆ドル(約660兆円)規模を投じる計画だ。成長戦略の柱に掲げるインフラ整備や公共事業は、人手不足に拍車をかける公算が大きい。米連邦準備制度理事会(FRB)は今月まとめた報告書で、「人が雇えずにフル稼働できない飲食店や接客業がある」(東海岸のリッチモンド地区)と指摘した。

 もっともFRBは、足元の物価上昇を「一時的」とする認識を崩していない。1年前にコロナ危機で物価が大きく落ち込んだ反動や、半導体や木材不足による供給面での制約の影響が大きいと指摘する。金融市場でもこうした見方は多いものの、人手不足が続けばインフレは一過性にとどまらない可能性がある。

 FRBは16日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、事実上のゼロ金利政策の解除時期を23年中とする見通しを示し、「量的緩和」の規模縮小の検討に入る考えを明らかにした。雇用市場の動向次第では金融政策を転換するタイミングが早まり、世界の金融市場に大きな動揺が生じる恐れもある。

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2147658 1 経済 2021/06/23 05:00:00 2021/06/23 08:02:45 2021/06/23 08:02:45 ニューヨーク中心部のタイムズスクエア周辺は活気を取り戻しつつある=小林泰明撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210622-OYT1I50159-T.jpg?type=thumbnail

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