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新型コロナ下で3密を避けながら楽しめると、ガイド付きの自転車ツアーが注目を集めている。徒歩よりも格段に行動範囲が広がり、車では素通りしがちなスポットにも気軽に立ち寄れる。まちのPRや学びにも活用されており、新たな旅のスタイルとして広がりそうだ。(山根彩花)
吉野川沿い
青空の下、折りたたみ式自転車を駆るサイクリスト14人が、1級河川・吉野川沿いを走り抜けた。

10月30日に行われた自転車ツアーは、徳島市の「万代中央ふ頭」を出発。船や鉄道で徳島県吉野川市に移動し、吉野川沿いや最大の中州・
ツアー料金は1人8000円(自転車レンタルの場合は1万3000円)。特徴は、ツアーに自転車に乗ったガイドが同行することだ。ガイドは満開のコスモス畑や絶景ポイント「岩の鼻」など、お薦めスポットを紹介。初めて徳島を訪れた兵庫県西宮市の大学生(21)は「定番の観光地だけを巡るより、徳島の雰囲気を味わえた」と笑顔を見せた。
主催したのは、徳島市の自転車店「BLUE CYCLE LABO」の真鍋祐樹さん(35)だ。吉野川市出身で、開店1周年記念に企画。多数の自転車を車両に載せるためJR四国などとも協議しながらコースを練り上げた。今後も徳島県内でツアーを計画しており「徳島の魅力をアピールし、自転車文化の浸透にもつなげたい」と意気込む。
各地で人気
広がりを見せているガイド付きの自転車ツアー。自転車販売店「サイクルベースあさひ」を全国展開する「あさひ」(大阪市都島区)は、約6年前から22都道府県の36店でガイド付きツアーを開催。スタッフがスポーツタイプの自転車の乗り方を教えながら、地域の観光スポットなどを走る。約600人が参加したという。
一般社団法人「ルーツ・スポーツ・ジャパン」(東京)が今年6~7月に実施した調査では、過去1年間に生活圏以外での「サイクルツーリズム」を経験した約1000人のうち、ガイド付きツアーの体験者は14・9%と、2018年調査の7・4%から倍増した。
こうした人気を背景に、新たな観光モデルを作ろうとする動きもある。
神戸市や公共交通機関などは11、12月に同市北区や西区の農村部を自転車で周遊する実証実験を実施。ツアー途中で農家や食品会社に立ち寄り、野菜収穫やパン作りなども体験した。事務局の担当者は「一般的な観光ルートでなく、地域を知ってもらう機会にしたい」と期待する。
震災遺構案内
茨城県土浦市は12月、移住希望者向けの自転車ツアーを行った。市内には国のナショナルサイクルルートに指定された「つくば霞ヶ浦りんりんロード」もあり、自転車を通じた地域振興に取り組んでいる。市の担当者は「走って土地の雰囲気を感じ、移住に前向きになってほしい」と狙いを語る。

東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県陸前高田市にある「道の駅高田松原」は、昨年10月から被災地を巡る「タカタ・ポター・サイクル」を始めた。職員4人がガイドを務め、津波で校舎が水没した旧気仙中学校などの震災遺構を案内。震災当時の様子を説明するほか、近隣の景勝地も回る。コロナ禍で中断したこともあるが、週1、2回のペースで催行しているという。
担当者は「陸前高田市を訪れても、『奇跡の一本松』だけ見て帰る人が少なくない。小回りのきく自転車で被災地のありのままを見てもらい、今の新しい魅力にも気づいてほしい」と話す。
サイクルツーリズムや町おこしを研究する矢部拓也・徳島大教授(社会学)の話「3密を避けられ、観光地だけでは分からない地域の日常を体験できる点で自転車ツアーが選ばれている。参加者が訪問先で消費活動をしてくれ、多様なニーズに合わせた行程で付加価値を高めていけば、地域活性化にもつながるだろう」