活躍するろう者や難聴者、「爆発的に増える」仕組み目指す…尾中友哉さん(サイレントボイス)

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尾中友哉さん サイレントボイス代表

 聴覚障害がある子ども向けの総合学習塾の運営などを手がける「Silent Voice(サイレントボイス)」(大阪市)代表の尾中友哉さん(32)。両親はろう者で、小さい頃から家では手話、学校では音声の日本語と、両方のコミュニケーションを経験してきた。「聞こえない人と聞こえる人の違いから価値を生み出し、社会で活躍する人を増やしたい」と願う。(社会保障部 田中文香)

漁で使った縄がジャケットに変身…「地域アピールの機会にも」
泉祥平撮影
泉祥平撮影
    おなか・ともや  1989年、滋賀県生まれ。滋賀大経済学部卒。ろう者、難聴者の教育や就労をテーマとした事業を展開する。日本青年会議所の人間力大賞にてグランプリ・内閣総理大臣奨励賞などを受賞。

聴覚障害のある子ども向けに学習支援、オンラインで全国に生徒

 サイレントボイスのスタッフ約20人の半数はろう者や難聴者が占める。塾の教室とオフィスを兼ねた拠点は広く見渡せるワンフロアで、社内の情報共有では「見える化」を重視。ホワイトボードやふせん、音声を文字に変換するアプリ、手話などを駆使して、耳が聞こえる人と聞こえない人が活発に意見を交わす。

 社名には、社会にまだ出てこない「声」を価値にし、彼らの能力を顕在化させたいという思いが込められている。「僕らのように、耳が聞こえる人と、聞こえない人が相互に理解し合い、助け合う関係を社会に広げていきたい」と語る。

 運営する総合学習塾「デフアカデミー」では仲間とのテーマ学習やお泊まり会の企画など、対話型のオンライン授業では、独自の教材による学習支援などを実施している。小学生から高校生まで約250人が登録しており、生徒は全国に広がる。

 聴覚障害がある子どもたちは学校や家庭で孤独を感じがちだ。オンライン授業を受けたある地方の生徒は、「世界で聞こえないのは自分1人だけと思っていた」と泣いたという。

 デフアカデミーは、そんな子どもたちの居場所であり、仲間作りの場でもある。「子どもたちに目標や打ち込めるもの、仲間を見つけてもらい、自分らしい生き方をつかんでほしい」と、授業では、聴覚障害がある弁護士やアスリートらを招き、子どもたちが将来の夢を広げる機会を提供する。

耳が聞こえない両親の通訳…「手話で自分にしかできないことを」

泉祥平撮影
泉祥平撮影

 耳が聞こえない両親を持つ尾中さんが最初に覚えたのは手話だった。家族の間では豊かなコミュニケーションがあふれていたが、保育園で初めて聞こえる世界に触れると、孤独を感じた。サッカーなどみんなで遊ぶ時に、周囲の話が理解できず、輪に入れなくて泣いてばかりいた。

 小学生になると徐々に音声の日本語も使いこなせるようになり、電話や親族の葬儀などの際には、両親の「通訳」を担うようになった。大学では映像制作の授業に熱中。大手広告会社に入社し、上京して営業に走り回った。

 だが、次第に与えられる仕事に打ち込めなくなっていった。ある日、近所の商店街で団子の包装を巡るやりとりが通じず、困っていたろう者と店員を偶然見かけ、とっさに通訳した。幼少期の経験がよみがえり、「手話を使って自分にしかできないことがしたい」と、約2年働いた会社を辞めた。

 だが、支援者になりたいわけではなかった。「耳が聞こえない両親と聞こえる僕との間には、お互いの助け合いが自然にあった。支援をする、される関係を超えて共に生み出せる価値がある」

 父は滋賀県内トップの高校への進学を断念してろう学校に進み、製造業の工場に勤務。尾中さんが同じ高校に合格すると、「自分も通っている気持ちになる」と通学用の自転車をぴかぴかに磨いてくれた。尾中さんと同年代の聴覚障害がある人たちも進路や職業が限られ、昇進に壁があることを知った。

 一方、喫茶店を経営する母は、「1度助けられたら2度助けるつもりでやっている」と客の表情をよく観察し、気配りを忘れなかった。その姿から「言われる前に相手が求めることをわかろうとするのは、聞こえないからこそ持った母の強み。聞こえる私たちの接客や社内でのコミュニケーションにも役立つのでは」と考えた。

 「両親の延長に、みんなが生きやすい社会があるはず」。仲間を集めて2014年にサイレントボイスを創業した。

「成長つかむ機会、遮られないように」

泉祥平撮影
泉祥平撮影

 事業の一つとして、ろう者が講師になるコミュニケーション研修を開発した。研修では、受講者が全員耳栓をする。「無言語」の環境で相手に向き合い、ろう者が得意とする観察と身体表現を使って伝え合うことを通じ、普段のコミュニケーションを見つめ直してもらうプログラムで、NTTドコモや大学などでも導入された。

 学習塾と並んで、聴覚障害がある人を雇用する企業へのコンサルティングにも力を入れる。今後目指すのは「社会で活躍するろう者や難聴者が爆発的に増える新しい仕組み作り」だ。

 チャットなど音声に頼らずに、ほぼリアルタイムで意思疎通できる手段も充実し、ITエンジニアなど障害に関係なく活躍できる職業も増えてきた。

泉祥平撮影
泉祥平撮影

 現在は生徒の進路相談にも注力する。「聴覚障害があることで、成長をつかむ機会が遮られることがないよう、将来の選択肢や目標になる人との接点を増やし、自分らしく、力を発揮できる社会にしたい」。

 尾中友哉さんに趣味などを聞いた。
――社風
 組織をよくするため、耳が痛いことをお互いに言うことがあります。そんな時でも、最後にグータッチを交わすと場がまるっと収まるんです。体でわかるやりとりが自然に生まれるのは、僕たちらしいですね。
――特技
 幼い頃から両親の通訳をしていたので、編集して伝える力が養われました。映像化やジェスチャーで伝えることが得意です。
――趣味
 街の古地図や古い写真を見て、過去に思いをはせるのが好きです。今は旧東海道を少しずつ歩いています。歴史や文化を知った上で歩くと、色々な発見があっておもしろいですよ。
――好きなスポーツ
 高校時代はラグビー部で、大学ではアルティメット(米国発祥のフライングディスクを使ったチームスポーツ)のサークルを作りました。今も、聴覚障害者ラグビーの組織運営に関わっています。

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